四話 何故だろう
―― 暗殺依頼を出して数日が経っている。
(何故だろう?)
そう感じたのは暗殺依頼を出した翌日からだった。
暗殺依頼を出したのだから、当然狙われるだろうなと思いつつ、訓練所で剣術と魔術の訓練を行うのが日課になっているのだが、最近何故か、カルマとカメリアが着いてくる。
いや、カメリアはまぁ良いんだよ。
実際今も、俺の拙い剣捌きを的確に修正してくれるから。
「随分腕を上げてきましたね」
「いや、騎士団長の教えが良いからね」
ふぅと息を吐きながら告げる。
熱心に教えてくれるので、大分強くなった自覚がある。と言っても、まだ帝国騎士の一般兵程度の実力しか無いだろうけれど。
それでも、この調子で行けばかなり強くなるだろう。
問題は・・・。
チラリと訓練所の隅を見ると、無表情で俺を見つめるカルマが居る。
時々、視線が合うとスチャっとメガネを治すカルマ・・・正直少し怖い。
専属メイドではあるけれど、ここ数日は常に俺の近くに居るし、何なら出かけようとすると『こちらお仕事です』と言って急に書類を渡してくるのだ。
しかも、数日先の仕事を。
怪しまれているのだろうかとも思ったけれど、どうもそんな感じがしない。
「そう言えば、アダム殿に聞きたかったのだが、訓練中身体強化魔法を使っているのか?」
ん?
どうしてそんな事を聞くのだろうか。
「えぇ使ってますよ。カメリア団長も使っているのでは?」
「いえ、私は使用しておりませんね」
え?なんで?
魔法も鍛えられるのだから丁度良いのではないだろうか?
「身体強化魔法を併用すれば、魔法力も向上すると思ったのですが、違うのですか?」
一石二鳥だと思ったんだけど。
何故か首を傾げるカメリア。
「確かに魔法力というか、魔力量の向上の為には、魔法を使うのは重要ですが、身体強化魔法程度であれば、そこまで重要では無いと思いますよ」
「あぁ。そういう」
つまり、剣術一本で成り上がった彼女からすれば、身体強化は息をするより簡単に出来るし、それ以外の魔法は別に覚える必要も無いと・・・まぁ彼女は剣聖とまで言われている一騎当千の猛者だから分からんでもない。
実際、この世界の魔法は全て遠距離主体だ。
近距離で魔法をぶっ放せば、自分にも被害が出るので、近接戦闘の事は考えないのが普通なのだろう。
それは、カメリアの様な騎士からすれば同じ考えで、むしろワザワザ自分の不得手な距離で戦う意味が無いから魔力を増やす意味が無いと。
そう言えば昔見た漫画でカッコいいと思った技がある。
「実は少し考えている事がありましてね」
得意げに告げると何故か真剣な様子で俺を見るカメリア団長。
いや、そんな真剣に見られても困るんだが。
「考えている事ですか?」
「えぇ」
そう言って俺は木剣に意識を集中させる。
一般人以下の自分では、使える魔法は少ない。
実際、生活魔法の火程度しか使えないのだが・・・そう!
魔法剣である!
ボウっと木剣が燃える。
メラメラと燃える剣をブンと振り下ろす。
ボトリと根元から折れる木剣。
「えっと・・・剣に炎を付与する?ですか」
なんとも居たたまれない雰囲気を出してくる団長。
さっき迄無表情だったカルマも笑ってる。
いや、木剣だから、こうなっただけで。
真剣なら折れないだろうに。
「アダム殿・・・その、剣に魔法を付与するのは意味が無いと思いますよ?そもそも、切った時点で相手には致命傷を与えられますから」
「そうか」
確かにそうだよね。
いや、申し訳なさそうに見てくるけど、こっちこそ申し訳ない。
攻撃には意味が無いか。
まぁ、身体強化をしている時点で攻撃力自体は担保出来るし、肉体強度も上がるから防御面も甲冑と合わせれば問題無いのか。
「攻撃には使えんか」
ぽつりと独り言を漏らす。
特に返事が欲しい訳では無いので「いや、参考になったよ」と告げる。
「攻撃にはつかえない?アダム殿それは一体?」
へ?そこ気にする?
いや、だが、これは使えるかもしれない。
裏切り者プレイに置いて味方にアドバイス(逆効果)をするのは今後の為になるかもしれん。
剣聖であるカメリアの弱体化は今後の為にも有効かもしれない。
だけど、攻撃に使えないのに押す意味も無い。
さりげなく弱体化する方法・・・そうだ。
身体強化魔法においてカメリア団長は一流である。
であれば、それを阻害出来る何か・・・並列使用を誘発出来る何かが良いな、例えばそう
「自動防御魔法とか?」
まぁそんな魔法無いけど。
「いや、何、気にしないでくれ」と告げて話を区切る。
そもそも、怪しまれない様なアドバイスなんか無理である、釈迦に説法的なあれだ。
「そうですか」
釈然としない様子のカメリア団長。
どうやら、誤魔化せたようだ。
「それよりも随分騎士団の皆は熱心に訓練を行っているようですね」
「えぇ。アダム殿のお陰です」
ふふっと笑うカメリア団長。
真剣に訓練を行っている騎士たちだが、俺のお陰?
あぁ。俺の不甲斐なさを見て『こんな雑魚に負けるか』的なアレか?
「そうか。まぁそれなら良いが」
「えぇ。準備を整えておきますよ」
準備?
何か別の事を言っている気がするがまぁ良いか。
真剣に励む騎士と言うのも悪くないしな。
さて、日課も終えた事だし。
今日の本題に入ろう。
「そうだ。カルマ」
ちょいちょいっと手招きすると、首を傾げながら俺達の所に来る。
そう、今日の本題はカルマを此処に置いて、単独行動をする事にある。
「今日は一日カメリア団長の傍にいなさい」
「何故でしょうか?」
ジッと俺を見つめるカルマ。
いや、俺が一人になりたいからなんだけど。
「その内分かる。とにかく、俺はする事があるから、今日はカメリア団長の補佐を行う事」
「それは命令でしょうか?」
「命令だ」
ニヤリと笑う。
渋々頷くカルマ。
何が何だか良く分からない感じのカメリアに「という訳で頼んだ」と言って俺は燃えカスになった木剣を拾い上げる。
「今日は城に戻るのは遅くなるからな」
「お一人でお出かけですか?」
「あぁ」
許せ。
俺は今日を逃せば盛大な計画が全て頓挫してしまうのだ。
なんせ、今日は犯罪組織『オルトロス』の奴隷売買が行われる日だと聞いたからだ。
あの、暗殺組織から情報を聞いたから間違いない。
ついでに情報の真偽を確かめる為に諜報部にもそれとなく確認して聞いているので問題ない。
ジッと俺を見つめるカルマは「そういう事ですか」と言って頷く。
何が、そう言う事なのだろうか?全く分からんが、勘違いしてくれているなら、それを利用しよう。
「そういう事だ」
「畏まりました」
スッとお辞儀するカルマ。
うんうん。
最近は頑なに、俺の傍から離れなかったが、こうすれば良かったのか。
何故か、カメリア団長と騎士の人達が真剣な様子で俺達の会話を聞いていたけれど、関係ない。
奴隷を買うのは犯罪だけれどこれは救出なのだ。
なので、バレたとしても多分大丈夫きっと。




