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三話 魔王と呼ばれた男 ※他視点



 『セブルディア帝国には魔王が居る』


 その噂は本人だけが知らないとカルマは知っている。

 カルマは皇女から命じられてアダムのメイドとして仕えている諜報員だった。

 陰に隠れて日々情報を集める彼女はアダムの事を信頼している。

 それは皇女も同じだからこそ、彼女は態々、諜報員の中でも一際優秀なカルマをアダムの側近に付けていたのだ。


 アダムの知略は軍師を超える。


 英傑と呼ばれる軍師でも彼には及ばない。

 彼が本気を出せば周辺国家は全てセブルディア帝国の属国に早変わりする。だから、彼には本気を出させては行けないと全員が理解していた。

 雑務を普段はこなす彼だが、一度戦争が始まれば、彼が言った一言で敵国の策略が暴かれ、瓦解する。

 軍師も彼の言葉は重要視していて、彼の突発的な一言をいつもメモして吸収していた。


―― 魔王が動いたと聞いたのは数刻前の事だった。

 

 カメリア騎士団長から『アダム殿が剣術訓練を始めた』と聞かされたカルマ。その時は、単純に運動をしようと思っての事かと考えていたのだが、これが間違いだと気付いたのは諜報部から届いた一通の連絡からだった。


「どうしたのだカルマ?私を呼ぶとは」

「緊急事態ですので」


 騎士団長室に赴いたカルマがカメリアに告げる。

 カルマが此処に来たと言うのは十中八九アダムについてだろうとは思っていたカメリアだったが、普段の彼女と違う、何処か焦った様子の雰囲気を察して険しい表情を浮かべる。


「緊急事態?」

「はい。先日、帝国子爵が、アダム卿の暗殺を企てた事は知っていますか?」


 確かそんな話があったなと思い出したカメリアが頷く。


「あぁ聞いている。だが、既に子爵の処刑も済んでいるし、暗殺も取り下げられたのだろう?」

「えぇ、ですが、新たに暗殺依頼が出ました」


「なに?どういう事だ」


 眉間に皺を寄せるカメリア。

 そこまでして、帝国の逆鱗に触れる馬鹿が居るのかと思ったカメリアだが、同時に『何故、それを私に報告するんだ?』と思った。


 彼女であれば、暗殺を依頼した存在を特定して、排除するなど、自分に言わなくても対処できるだろうに・・・と。

 だが、彼女から告げられたのは予想外の事だった。


「依頼内容は『アダム卿の暗殺。期限は一週間』そして依頼主はアダム・グローエンつまりアダム卿本人です」


「なんだって!?」


 そんな馬鹿な話があるのか?

 自分自身を暗殺依頼するなど自作自演をする意味は無い。

 それこそ、アダムはカルマの事を知っている筈だと。彼女が諜報部主席だと言うのは事実であり、そんな依頼をすれば直ぐにバレる。


「何を考えているんだ?アダム卿は」

「分かりません・・・ですが、不可解ではありませんか?アダム卿が急に自衛の為と言って剣術を始めた、そして、自作自演の暗殺依頼」


「ちょっとまて・・・そういえば」


思い当たる節があったカメリアがカルマを見つめる。

カルマも同じ事を考えていた様で「クレバス平原の悲劇か?」と尋ねたカメリアに同意する様に頷く。


「はい。確かあれも、きっかけは暗殺組織でした、それも隣(・)国(・)王(・)女(・)の(・)二(・)重(・)暗(・)殺(・)依(・)頼(・)」


 状況を似せている?

 なんの為にだ?確か、クレバス平原の時は王女殺害を企てた他国の王とクレバス王国とで戦争になり、最終的には私達の介入で痛み分けで終わった筈だ。


 クレバス王国は王女を殺害され、殺害を企てた国は指導者を失うと言う悲劇でだ。

 今も、その傷は残っているが。


「まさか?」

「恐らく・・・背後関係は洗っていたのですが、もう一度徹底的に洗い出します」


 子爵と繋がっている他国の人間がセブルディアを狙ったと言う事か?

 だとすると不味いな。


「カルマ。くれぐれもアダム卿を動かすなよ?アダム卿が本気で動いたらシャレにならん」

「分かっております。彼はこの国の逆鱗です」


 女性が上位にいるこの国で唯一認められた男。

 それが、アダム卿なのだ。

 あの作戦も本格的にする必要があるかもしれない。


「もし、アダム卿が動こうとしたら、分かっているな」

「はい。そ(・)の(・)為(・)に(・)メ(・)イ(・)ド(・)と(・)し(・)て(・)居(・)る(・)の(・)で(・)す(・)か(・)ら(・)」



 カルマがアダムの近くに居るのは、監視の為では無い。

 メイドと言う立場もある意味、ついでなのだ。


 本当の狙いは、彼を他国に取られない様にするため。

 そして、女に溺れてもらい、大人しくしてもらう為なのだ。


「問題ありませんよ。既に、アダム卿を篭絡する手筈も整っております」

「分かった」

「では失礼します」

「ちょっとまて」


「どうしましたか?」と言って振り返るカルマに気になった事を聞く事にした。


「暗殺依頼はどうするつもりだ?」

「それですか、一応手を抜く様にと伝えてそのままにしてあります」


 つまり、アダムの暗殺依頼自体は取り下げていないと言う事か。

 直ぐにでも取り下げるべきだろうに。


「言いたい事は分かります。ですが、邪魔をするべきでは無いでしょう」

「それはそうかもしれないが」


 アダムが動いたと言う事は、そこに何か理由があるはずだ。

 まさか、裏で動いている国を探る為か?


「どちらにせよ。私が居るので暗殺は失敗しますからご安心を」

「そうか、分かった」


 ペコリとお辞儀するカルマ。


「それよりも、準備を進めてくださいね。例の組織についても、アダム卿は探っている様ですから」


 ついでにアレを処理するという事だろう

 ならば、久しぶりに剣聖として本気を出すのも悪くないな。



 アダムの思惑とは別に戦争に向けてセブルディア帝国が動き出す。



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