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二話 裏切りプレイの始まり



 帝国では、大臣に専属メイドが付く。

 とはいえ、大臣でメイドを付けるのはアダムくらいだった。

 他はそもそもメイドは不要だと言うスタンスの為、専属メイドはアダムの特権として機能しているのだが、そんな専属メイドのカルマ・ブロッサムは優秀なメイドだった。


 アダムの仕事は多く、色々な雑務をこなす為、普段から身の周りのお世話をしているカルマは自然とメイドとしても優秀になっていった。


 執務室に入ると、既にカルマが机の脇に立っている。

 入室に合わせて深々と礼をする彼女は、俺を見ながら「アダム様、お疲れ様です」と言って直ぐに椅子を引いて席に案内する。


 カルマが居るから、先に訓練所で汗を流して置いて良かった。


(汗臭いとか思われたくないし)


「それで、カメリアから聞いたが、何か用があったのか?」

「はい。アダム様、ご報告がございます」


 スッと机の上に羊皮紙を置く。

 手に取って眺めると、どうやら情報屋からの資料だった。


―なるほど?


「つまり、俺を狙う存在が居ると?」

「はい。暗殺を企てている者がおりました」


 スチャっとメガネを正して告げるカルマ。

 無表情だが、真剣な様子だ。

 彼女はメイドと言うより、俺にとっては情報収集要員と助手と言う立場が近い。こういう時に重宝するからこそ、彼女を完全に俺の手駒にしたいのだ。


 それにしても、何で俺を暗殺するんだ?

 俺を狙っても何も意味ないと思うのだけれど。


「俺を狙っても意味ないと思うけどね」


「そんな訳ないでしょう。アダム様が暗殺されれば、この国は傾きますよ」

「そうか?俺は事務仕事くらいしか出来ないからなぁ」


 ポリポリと頭を掻きながら告げる。

 カルマはどうも、俺の事を過大評価しているみたいだ。俺にそんな力は一切ないのに。


「それで、暗殺組織はもう動いているって事か?」

「ご心配なく。既に対処してあります」


 無表情で告げる。

 対処って壊滅でもさせたのだろうか?


「対処って壊滅でもさせたのか?」

「いえ、依頼そのものを破棄させました」


 相変わらず、どうやってそんな事をしているのか不思議である。

 彼女は情報屋から数多の機密情報を聞いては先んじて対処している。本当にメイドなのだろうかと不思議に思うくらいだ。


 背もたれに深く背中を預け「依頼人は分かっているのかい?」と尋ねる。

 なんか、依頼人まで始末してそう。


 俺の予感は的中していた様で、自信に満ちた様子で「はい。当然です」と答える。


「そうか。まぁ俺を狙った所で意味ないと思うけど....うん?」

「どうされました?」


 不思議そうに俺を見つめるカルマ。


―― これは使えるかもしれないぞ?


 この暗殺依頼を敢えて自作自演する。

 問題はカルマだ。彼女の情報収集能力を侮ると普通にバレる。


「いや、何でもないよ」

「そうですか...もし何かあれば教えてください。対処致しますので」


 無表情で告げるカルマ。


 カルマにバレずに暗殺依頼を行う。その上で、機を見て彼女を引き込む・・・だが良いのかそれで?

 真の裏切り者と言うのは本来味方だと思っていた人を裏切る時に起こる快楽、それを求める者を言うのだ。そもそも彼女の様な優秀な人間が俺の給料事情を把握していない訳が無いのだ。


 彼女も俺を心の何処かで見下している可能性もある。

 ならば、国と関係の無い、暗殺組織を使うのも悪くないのかもしれない。

◇◇◇◇


 城から出て、一人暗い路地に向けて歩く。

 カルマには「少し用事が出来た」と言って一人で外に出た。

 尾行の可能性は無い。なぜならとても信頼されているから・・・但し見下している可能性はあるけれど。

 俺が自作自演をしているとバレない様に、路地裏で仮面を付けて姿もローブで隠して誰か分からない様にしている。

 仮面に関してはカルマも知らない筈だ。

 ローブは何か前大臣が持っていた物で、何か良く分からん事を言っていた気がするが覚えてない。


 路地裏の奥にある古びた酒場。

 営業しているかも分からない、その酒場の中に入ると、店主が一人だけ居てグラスを拭いている。

 彼が、この帝国に存在する暗殺組織のリーダーだと言う事は既に調べてある。


 カウンターに座り店主に向けて「生のステーキを一つ」と告げる。

 この酒場にある秘密の暗号である。


「どこでそれを?」

「教える必要はあるかい?」


 ジッと俺を見つめる店主は小さく首を振る。


「いえ、失礼、それで何をお求めですか?」

「これを」


 スッと羊皮紙を差し出す。

 受け取った店主は眉間に皺を寄せて俺を見つめる。

 まぁ、そりゃ不思議だろう、取り下げられた依頼が再度別の人間から依頼が来たのだから。


「なぜ?アダム卿の暗殺を依頼するので?」

「何・・・理由はその内分かるさ」


 仮面越しにニヤっと笑う。

 こういうのは雰囲気が大事なのだ。

 余裕たっぷりで肩を竦める。


「つい最近同じ依頼を受けたのですがね」

「そうか。それは失敗だった。既に暗殺依頼がされていたか」


「いえ、取り下げられてますよ・・・そちらに関してはね」


 値踏みするように見つめる店主。

 俺は、袋に入れてきた大量の金貨(俺の貯金)を取り出して無造作にカウンターに置く。


「これだけあれば良いだろう?」

「確かに受け取りました」


 チラッと袋の中身を確認した店主が頷く。

 あぁ大事な事を忘れてた。


「あぁそうだ。期間は一週間だ。失敗しても金を返せとは言わないから安心してくれ」

「畏まりました」


 ペコリとお辞儀する店主。

 うんうん。まぁ暗殺が本当に実行されたら、俺が死ぬのだが、問題はそこではないんだ。

 裏切りプレイの一幕を飾る自作自演。


 これこそ、カルマのお陰で閃いた作戦である。


 自作自演の暗殺依頼、狙われる俺。

 カルマはきっとこう思う筈だ。


『セブルディアを狙う誰かが居る!』


 問題は暗殺集団が俺の事をバラす事だけど、あいにく俺は面識もない。

 それに仮面を付けているのできっとバレない、うん。


 路地を出てニンマリと笑う。


「これで、後は黒幕をどうするかだけど」


 ぶっちゃけ居ない。

 いや、黒幕は俺なんだけどさ。


―― どこかの国でも属国に出来ていればなぁ。


 そうすれば、その国の重鎮を誰か巻き込んで味方に引き入れるとか出来るし、何なら独立させてそこのトップになるとか出来るのに。

 今から、何処かの国を落すか。


―― 無理だな。


 ぶっちゃけ俺に力が無いからなぁ。

 うーん。


「そう言えば前にカルマから聞いた事があったな」


 確か、帝国の何処かに奴隷を違法売買している組織があるとか。

 戦闘力のある奴隷を買ってでもバレるか。

 いや、引き抜いた(救出した)的な、恩を売るのも良いかもしれないな。


 それなら、手元に置く意味もあるし、助けた恩で従順な臣下にも出来るだろう。


 そうと決まれば、探そう。

 奴隷売買現場を。



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