一話 裏切り者は好きですか?
―― 裏切りってクソじゃね?
戦記無双系のゲームをしていて友達が言った言葉だった。その時は友人なので、適当に相槌を打って誤魔化したけれど、俺は違う事を思っていた。
「さて、アダムよ。今日からお主がこの帝国の軍務を預かる大臣じゃ」
「畏まりました。今後、帝国を発展させるべく精進致します」
執務室で前大臣が俺を見て感慨深そうに机をなぞる。セブルディア帝国を支えた前大臣は今日を持って引退して、補佐官であった俺、アダム・グローエンを後継として任命した。
―― あの時の友人と会えたら、胸を張って告げるだろう。
裏切りこそ人生そのものだろ?と。
「なに、剣聖 カメリア団長もおるでな。彼女と上手く意思疎通をして居れば、変な事にもなるまい。それに、お主は先のクレバス平原での活躍もあるでな、信用も厚い」
俺を見つめる前大臣は朗らかに笑う。それに対して肩を竦めて「ご期待に答えられるように頑張りますよ」と告げる。
(そんな事あったっけ?)
そう言えば、何か適当に『人が多いね』みたいな事言ったら、敵の内部工作員が居て助かった的な事が会ったっけ・・・でも、あれは、単純に配給が少ないと困るなぁ的なあれで言ったんだけど。
「そうか。さて、老骨が長居するのも悪いでな、そろそろお暇しようか」
そう言って、ゆっくりと執務室から出ていく前大臣。
去り際に手を振りながら帝国の未来を俺に託した前大臣にペコリとお辞儀して別れを告げる。誰にも見えない死角で俺は、ニヤリと笑っていた。
(まぁ良いか。これで、本格的に始められる)
自分が何でこの場所に居るのか、どうしてこんな事になっているのかを理解したのは数年前の事だった。前大臣の補佐として働いていた時に、頭に皮表紙の重たい本が直撃した事があった。その時に、俺は前世の記憶を思い出したんだ。それと同時に今、俺は剣と魔法の世界に居る事実と、そして国の役職に付いている事実・・・それらを合わせて思ったのだ。
―― 裏切り者プレイが出来るじゃん。
国の重要人物。
しかも皆からは品行方正な優秀な大臣。
人望も厚く頼られる存在、そんな大臣が重要な局面で裏切り、仲間から『なぜ!裏切るのですか!!信じていたのに!』と言われる。
実際、そんなキャラが居たような気がする。敢えて深堀はしないけれど。では何で、そんな事を今考えているのかと言うと理由がある。
セブルディアは大国である。
多数の国がひしめき合っている、この世界で特に軍事力は世界一である。この国に並ぶ存在はおらず、皆がセブルディアに逆らわない。そんなセブルディア帝国の中枢にいる人物は当然給金は高い
大臣職になれば、この世界の平均年収の五倍が通常なのだそうだ。だが、実際は据え置きだった。
補佐の時から給金は少なかったが、大臣になっても給金は据え置き、理由は『男』だかららしい。この国の王である皇帝は大の女好きらしい。それもあって、俺が大臣になる事に皇帝は反対していたと言う噂もある。実際は、前大臣の強烈な後押しのお陰で今の地位に着いたのだけれど、そんな事を聞いた以上は正直、この国に未練はない。
(俺は結構頑張っている筈だ)
他の大臣や、騎士団の面々は皆優秀だし、俺を信頼していると思う。でも信頼とやりがいで生きていける程簡単な世界では無いのだ。
なので裏切る。
具体的には、俺を認めてくれる他国に移籍するか、もしくは他国のトップになる。
他国のトップの方が良いかなと思っているけれど、その場合は優秀な人を自国、他国問わずに引き抜くつもりである。
それなら、ついでに、自分の趣味?性癖?でもあった裏切りプレイをしようと思うのが男ってものだろう。
そうして、大臣になって数年間俺はひたすら仕事をこなした。
信頼を勝ち取り、活動資金の為に貯金をする。大臣の癖に質素な生活を強いられてもめげない。なんせ、輝かしい未来が待っているのだから。
道中どんなに功績を上げても、俺の給料は一切上がらない。
そんな帝国に輝かしい未来が訪れるなど、俺は許せん。
耐え忍んだ数年間、それが遂に報われる。
真の裏切りの開始である。
◇◇◇◇◇
俺がまず訪れたのは訓練所からだった。
自分自身に力が無ければ舐められてお終いである。だから少しでも実力は付けておきたい。
幸いな事に普段から暇な時に運動をしていたので、体力関係は問題無い。問題があるとすれば、魔法と剣術である。
何人かの騎士が訓練に勤しむ中、俺は堂々と立て掛けてある木剣を手に取り、素振りを開始する。
ブンっと空気を切り裂きながら上段から振り下ろす。
お世辞にも上手ではないが、日々の鍛錬が重要なので今日からは素振りを日課にしよう。
だけど、俺の様子を見ている騎士の何人かは俺を笑っている。
少し気恥ずかしいが、これも理想的な裏切り者プレイの為なので気にしない。
気にせず数刻、俺はひたすら素振りを続ける。
汗を流しながら、それでもひたすらに木剣を振り続ける。ついでに魔力の訓練も行う必要があったので、自身に身体強化の魔法を使って効率よく魔力を扱う訓練も怠らない。
魔力量も限界まで何度も使えば自然と上昇する。結局は筋トレと一緒だ。
酷使しすぎると死ぬ可能性があるらしいが。
「珍しいなアダム殿」
「む?あぁカメリア騎士団長、お疲れ様です」
「うん。お疲れ、アダム殿が訓練所に居ると聞いて来てみたのだが、どうしたんだ?」
どうやらチクられたらしい。
甲冑に身を纏った美しい白髪の女性、カメリアが不思議そうに俺を見ていた。
気配を消していたみたいで、目の前に来るまで、全く気付かなかった。
「いえいえ、自分も自衛くらいは出来る様になりたいと思いましてね」
「そうか、だが、アダム殿は戦場に出る訳でも無いだろう?ほどほどにしておかないと、仕事に支障が出るのでは?」
俺が軍務を管理しているから、疎かになると彼女も困るのだろう。
「仕事は仕事。これが理由で疎かにはしませんよ」と言って大げさな身振りで冗談めかしに笑う。
「ふふっ。相変わらず面白い男だな。どれ、少し見てやろう」
「騎士団長が自ら教えて下さるなら光栄ですね」
「まぁ、貴殿の素振りは見てられなかったからな」
ふふっと笑いながら告げるカメリア。
まぁそりゃそうなのだが、面と向かって言われると少し傷付く。
俺の素振りを見ながら的確にダメな部分を指摘していく彼女。剣術に置いては最強である彼女の指摘は凄く的確で、最初の頃と比べて格段に良くなっている自覚がある。
「いやぁすまない。カメリア団長は指示も的確だ」
「いや、そんな事はないさ。実際、その・・・まぁ私以外の騎士が教えても変わらないさ」
あぁつまり、とんでもなく下手くそだったと。
「そ、そうですか。いや、お恥ずかしい」
「何、誰でも最初はそんな物だ。気にする必要は無いよ」
屈託なく笑う彼女。
彼女とは軍務を管理する関係上良く一緒に話すので仲は良い。
その後も数刻剣を振り続け、そろそろ疲れてきた。
「ふぅ。今日は大分疲れたからこの辺で止めておこうかな」
「そうした方が良いだろうね...あぁそう言えば、カルマが呼んでいたぞ」
カルマと言えば、俺の専属メイドだ。
専属というだけあって優秀なのだ、正直裏切りプレイをする以上は彼女も欲しい所ではある。
「分かった。ありがとうカメリア団長」
「いや、気にしないでくれ」
ペコリと俺はカメリアに礼をして、木剣を元の場所に戻して訓練所を出ていく。
さて、裏切りプレイの仕込みを始めよう。
新作です。
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