二十四話 クレバス動乱―9 ※他視点
煮詰まった室内で動きが取れない諜報部と騎士団。
仲間内にスパイが紛れ込んでいたと憤慨する財務部と大臣。そんな事態を変えたのは他でもないアダムの行動からだった。
室内に飛び込んできた、兵士がカメリア達を見て慌てたように「報告します」と告げる。
「今は大事な時です。報告は後に」と告げるカルマを無視して兵士が「開戦です」と告げた。
驚愕する面々を見て兵士は「既に、軍師リーナ・グレイシャス様も準備を始めており、カメリア団長を至急招集するようにとの事です」とハッキリ告げる。
軍師が動くという事は本気で攻め入るという事だ。
こんな時に一体何処と戦争をするつもりだと思う面々に対して、見下す様に笑うユーリ。
「だそうですよ?どうしますか?カメリア団長」
「くっ・・・こんな時に」
「何処と戦争するつもりですか?」
睨むカメリアに対して冷静さを崩さないカルマが兵士に尋ねる。
彼女は半ば確信があった。なんせタイミングが良すぎたのだ。
「はっ。クレバス王国とです」
「はぁああああ!?ど、どういう事だ!」
憤慨するユーリ。開戦となった以上、自分を守るペンダントは殆ど意味を成さないと理解したからだ。
今度はカメリア達が勝ち誇る。
「で、どうして急に開戦なんて?」
「はいっ。先ほどアダム・グローエン卿の直属であるクリス・ブロッサム様より報告があり、アダム・グローエン卿がバック王の帝国への策謀、その証拠をつかんだと・・・それと」
「それとなんだ?」
「先ほど、アダム・グローエン卿に対してバック王から不当な死刑宣告とその実行、未遂ではありますが、その確認が取れました」
何処まで見ているんだとカメリアは感嘆と同時に呆れる。
アダムは内通者の存在もそうだが、全て分かって行動している。どうせ、帝国が開戦する口実の為にワザとバック王を焚きつけたなと。
だが、驚愕しているのはカメリアだけではなく、カルマもだった。それも別の意味で。
「直属?ねぇ。何を言っているのかしら?クリスは直属ではないわよ?」
「ですが、先ほど皇女様より『アダム卿がようやく直属を指名したらしいわよ』と笑って言っておりましたが・・・ひっ」
グシャっと潰れる机。
潰した張本人のカルマは無表情だが、怒気を含んだ眼で兵士を睨み、そしてユーリを見る。
「後でクリスを殺害します・・・そうすれば姉である私は必然的に直属に昇格できますから――さて、そうと決まれば、こんな茶番は終らせましょう。拘束しなさい」
その声を聞いて即座に行動する。
諜報部に組み敷かれ「止めろ!!こ、こんな事してタダで済むと思うのか!」と叫ぶユーリの目の前に移動したカルマが、床を踏み抜く。
「現クレバス王国の要人である時点で我が敵対国ですよ?拷問から、死刑に変わったのですから良かったじゃないですか・・・拷問、されたくなかったのでしょう?」
「や、やめてくれ」
「そもそも、貴様がこんな茶番をしなければ、今頃私が直属になっていたかもしれないのに」
これ以上話してたらこの場で殺しそうだと思ったカメリアは「さっさと連れていけ」と言って指示を出し、ユーリを牢獄に連れて行かせる。
静けさが戻った室内でカルマの肩に手を置く。
「まぁ。その・・・一応カルマも専属メイドだろう?」
「それはそれ、これはこれです」
ぐるりと顔だけ振り返り無感情でカメリアを見つめる。
「まぁ、その・・・後にしよう。開戦の準備がある」
「・・・不要です」
ムッとした顔しながらカメリアを見つめ不要と断言する。
それはカルマが長年アダムと行動しているから知っているある意味確信でもあった。
「ノエル嬢を助けた時点でもしやと思いましたが、戦闘にもならないでしょう。首を挿げ替える気ですよ」
「バック王から、ノエル・ローズマリーにか?」
コクリと頷くカルマ。
だが、首を挿げ替えても、アダムを死刑にした国の責任は取らなければ行けない筈だ。
そんな簡単に終わる話じゃないだろうとカメリアは考える。
現に、開戦の為に軍が動員されようとしているのだから。
「まぁ、見ててください。恐らく後数刻もすれば元直属のクリスから報告がくるでしょうから」
「元・・・いや、まぁいいか。だが、招集があった以上は私も準備はしに行かなくては」
そこで言葉を区切ってマルーンを見て「後は任せても良いだろうか?」と尋ねると、マルーンは大きく頷き「えぇ勿論」と答える。
部屋を出て、招集場所に向かう。
カメリアは『どのような結末を見ているのだろう』と離れた地に居るアダムに思いをはせる。
彼の智謀は何処まで伸びているのか、もしかしたら私も既に絡め取られているのかもしれないと。
だが、それも悪くないと思うカメリアだった。




