二十話 クレバス動乱―5
「いや、遅れてすまないね」
「いえ、こちらこそ、無理なお願いを聞いていただきありがとうございます」
お辞儀して向かいのソファに座るノエル。
アダムは、豪華な一室に案内されていた。
と言うのも、アダムは急遽思いついた策を実行するべく、昨日約束した通り、王城へと足を運んでノエル・ローズマリーと面会を希望した。王城に着いて、兵士に話したら、即座に案内され彼女と面会出来た為『もしかして、彼女は俺に惚れているのか?』と良く分からない勘違いをしているアダム。
彼女を使った裏切りを思いついたアダムは爽やかな笑みを浮かべていた。
(これは、行ける)
必死に考え付いた真の裏切りプレイの為にも彼女は重要な存在なのだ。そして、もう一つの問題は隣で呑気に紅茶を飲んでいるクリスの存在。
チラリとクリスを見るアダム。
彼女は帝国の人間だが、一応暗殺組織の人間だ。であれば、此処で引き抜くのも悪くないと考えたアダムは行動を開始する。
―― クレバス王国を変えるクレバス動乱はアダムの悪だくみから事態が加速する。
「さて、ノエル殿、先ず話をする前に、こちらの問題を片付けてもよろしいかな?」
「問題ですか?一体なんでしょうか?」
首を傾げるノエルに断りを入れてアダムはクリスを見つめる。
「クリス。少し予定が変わったんだが、君は俺に仕える気はあるか、此処で決めて欲しい」
「え?それはどういう意味でしょうか?」
意味が分からないと言いたげなクリス。
クリスからすれば、諜報部に所属している時点である意味、クリスはアダムの配下でもある。今朝の会話はクリスからすれば、カルマでは無く、自分を専属メイドとして雇うと言う意味だと思っていたクリスは此処に来て何か別の意味だと理解した。
「組織を捨て、俺に忠誠を誓うかい?もし、それが出来ないなら、悪いけど外に出てくれ」
目を見開くクリス。
一体何を言いだしているんだ?と驚く。同じくノエルも驚愕していた。
「それは・・・命令でしょうか?」
「いや、お願いだよ。何、断っても問題ないよ。ただ、これからノエル殿と話す内容はとても大切な話なんでね」
動揺した様に目を動かし「今、決めないと行けませんか?」と尋ねるクリスに頷く。
そんなに居心地が良かったのか?暗殺組織って?
なら、無理に引き抜く必要もないのかもしれないなぁと呑気に考えているアダム。
しばらく無言でアダムを見つめるクリスは戸惑いながら「わ、わかりました」と震える声で告げる。
「どういう意味だい?」
「そ、組織を捨てて、ほ、本日をもってわ、私はアダム様の忠実な配下になります」
ソファから降り、膝を付いてアダムに宣言するクリス。
クリスはアダムを絶対的に信頼していた。そんなアダムが直属を求め、そして、姉では無く自分を選んだと判断したクリスは、この日諜報部を辞める決意を固めた。
ただ、そんな覚悟を決めさせる提案をしたアダムは『お!裏切り仲間ゲット』と呑気に考えているのだが。
「その覚悟、受け止めよう。今後は俺の為に生きる様に」
「はっ。かしこまりましたアダム様」
おぉ良いねこういうの。なんか、カルマとか、国に仕えている子達はこう・・・俺の仲間って感じじゃなかったからねぇ、何て言うか、同僚みたいな?でも、今のクリスから感じる感情は、まさしく配下って感じがして好きだ。
「さて、すまないねノエル殿」
「い、いえ、あの・・・?」
滅茶苦茶戸惑った様子のノエルに、俺は気にせず「それで、本題を話そう」と言う。
なんか、さっきまで、クリスはソファに座ってたのに、急に配下になった途端、俺の後ろに立って臣下の様にふるまっている。ソファに座れば良いのに。
「この街を見て回って少し分かった事がある。この地が未だに復興していない理由がある。違うかな?」
ジッと見つめる。
ぶっちゃけ、出まかせも良い所ではあるが、多分当たってる。だって、今の王はバック王なのだから。
彼は典型的な王様体質だ。
俺の予想は当っていた様で、目を見開き「やはりお見通しですか」と告げ暗い顔をする。
うむ。此処でアレを使おう。
「あぁ。所で、暗殺依頼について知っているかな?」
アレ、つまり俺の自作自演の暗殺依頼である。あの黒幕をバック王とかにしてしまおう。
バック王には悪いけれど、王とは大体勝手に恨まれるものである。
「えぇ知っております。裏で誰が動いているのかはアダム卿がご存じだとも聞いております」
え?誰からそんな事を?
いや、まぁ良いか。多分クリスだろう。うん・・・。
「えぇ。暗殺依頼をして得をする人は限られる。そうは思いませんか?」
「・・・まさか?」
なんか、勝手に解釈してくれそうだ。よし、このまま押し切ろう。
「そのまさかですよ。そして、この国が発展するには、優秀な指導者がトップに立つべきです。それも武力のある人間ならなお良い。聞きましたよ?最近の冒険者に対する税制の改革に反対していたそうですね?」
ジッと彼女を見つめる。
動揺した様子を浮かべるノエルに俺は畳みかける。
「貴方は優秀だ。恐らくそれは亡きレイン王女と共に歩んでいたからでしょう」
レイン王女とは話したことがある。
実際彼女が存命で国を導いていたら、この国はとっくに栄えているだろう。それは前大臣も言っていた事だ。
・・・・あ、そう言えばレイン王女が言ってたな。
ふと思い出した俺は「アルカバニアの離宮」と漏らす。
それを聞いたノエルの表情が急に変わる。
身を乗り出して詰め寄るノエルは「それを何処で聞いたのですか!?」と凄い剣幕だ。
俺は爽やかスマイルを崩さずに『ココだ!』と決めた。
「知りたいですか?」
「はいっぜひ聞かせていただきたい」
頭を下げて俺に嘆願する彼女に「では、あなたは何を差し出せますか?」と尋ねる。
息をのみ込んだ彼女が意志を持った瞳で俺を見つめる。
「望む物を何でもお渡しします」と真剣に告げる彼女。
そんな彼女に俺は『勝った』と確信して告げた。
「では、貴方を貰いましょうか」




