十九話 クレバス動乱―4 ※他視点
――その日帝国城内で騎士団と諜報部が動き出した。
いつもと同じように仕事をする城内の人間。
だが、その日は違った。
財務部の仕事場に遠慮なしに入室するカメリア団長。
一体何事かと慌ただしくなる中、一人の男が狼狽えていた。
カメリアがその男を見つめる。
それと、同時に財務大臣のマルーンが戸惑いながらカメリアに近寄る。
戸惑いながら「どうされたのですか?」と尋ねる彼女に「皇女様からの通達だ」と告げる。
「皇女様から?一体、何を」
「マルーン大臣。貴方にではなく、お前にだ」
スッと指さす先、そこには狼狽えている男・・・ユーリが居た。
普段の優し気な雰囲気は無く、只慌てている。
顔を青ざめさせながら「ぼ、僕ですか?い、いったい何ですか?」とガクガクと小刻みに体を震えさせながらカメリアから後ずさる。
「既に証拠も全て押さえてあるぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください。一体何なんですか?」と慌てるマルーンに「そこの男は、諜報部のギールと言う男に賄賂を渡す為にアダム卿の給金を偽装して、本来アダム卿に支払われる筈の金を横流ししていた」
スッと手に持っていた書類をマルーンに手渡す。
即座にマルーンは書類の中身をチェックしていき、頭に手を置いて首を振る。
「どういう事ですか?ユーリ。この書類は!!」
バッと乱暴に翳しながら激昂する大臣。
正式な書類を作成していたマルーンは即座に改ざんの跡に気付いた。
「わ、わかりません!そ、そもそも・・・そう! 書類は毎回別の人が届けているじゃないですか!? もし改ざんされているなら、財務部の問題では無く、別の――――」「黙りなさい」
ぴしゃりと一括するマルーン。
「私を舐めないでください。この改ざんの仕方、帳簿の書き方は財務部の人間にしか書けません。そして、この書類の書き方と特徴を私が間違えるとでも?」
ギロリと睨む。
「貴方の書き方の癖は独特です。数字の書き方が特に」ビシっと紙の文字を指さすマルーンと、それを見て狼狽えるユーリ。
「と言う事だ。まぁそもそも、ギールが自白したからな。証拠としては既に十分そろっている」
「あ、あいつ!!」ギリリと歯を食いしばるユーリ。
「さて、どうしてこんな指示を出した」
そう言ってカメリアが一枚の羊皮紙を取り出す。
そこには指示書と書かれていて、何故彼がギールに対して裏金を渡していたのか、その真意が事細かに乗っていた。
羊皮紙を引っ手繰る様にマルーンが取り、内容を確認していく。全て読み終えた彼女は顔を青ざめてカメリアとユーリを交互に見る。
「なっ!なんですかこれは!?」
肩を竦めてカメリアは「私が知りたいくらいだ。何故クレバス王国の王女暗殺を依頼したのか」と言ってユーリを睨む。
対するユーリは固く口を閉ざし、睨むだけ。
―― ギールに対して裏金が渡っていた本当の理由は口封じだった。
彼が行ったクレバス王国王女に対する暗殺依頼、その隠蔽と口封じ。諜報部の中に裏切り者が居た等、考えもしていなかった自分たちからすれば、大罪で、決して許される行為じゃない。
「いう訳ないだろ」
「そうか。だが、今回の件は諜報部も相当頭に来ているみたいだぞ?その自信が何時まで持つかな」
ギールに対して行われた拷問は、それは酷いものだったと聞く。
そんな拷問をたかが財務補佐の人間が耐えられるわけが無い。だが、カメリアの発言を聞いても自信に満ちた様子を浮かべる。
「く、くふふふっははははっ!!」
「・・・何がおかしい?」
突如笑い始めたユーリに対して警戒するように睨む面々。それを見ても、何一つ態度を崩さないユーリはカメリアとカルマを見つめ見下す様に睨む。
「俺を捕らえるか?拷問するか?それも良いかもな・・・だが、そんな事お前達に出来る訳がないのさ!たくっ。こんな事ならさっさと行動すれば良かった」
「私に出来ないとでも思っているのですか?」スッと一歩前に出て、無感情で告げるカルマに「あぁ出来ないとも」と言い挑発する。
「出来ないとも、なんせ、今の俺はセブルディア帝国財務補佐という肩書は仮だからな。今の俺はクレバス王国の要人でもあるからな」
懐から装飾の施されたペンダントを取り出し見せつけるユーリ。
それを見たカルマ達が驚愕する。ユーリの持っているペンダントは正しくクレバス王国の重要人を証明する物だとハッキリわかったからだ。
―― クレバス王国の王家が手渡し、効力を発揮するペンダント。その意味は『クレバス王国の王家が保護している者』という意味がある。
つまり。
「俺を拘束したり、拷問すれば、その時点でクレバス王国に対する敵対行動を意味する。今のお前らにそれが出来るか?出来ないよなぁ?なんせ・・・王家の女王に対する暗殺依頼を出してたんだ」
これが狙いかとカメリアは理解した。
王女暗殺を依頼したセブルディア帝国が、王家が保護している人物を捕縛、拷問をしたと世間に公表されれば、いかに軍事力のある帝国といえど、他国からの圧力も増える。仮にクレバス王国に対する報復が叶ったとしても、世界中からの避難の的になるのは目に見えている。
―― たとえ、暗殺依頼がでっち上げの物であったとしても、それは他国に公表出来ない。
してしまえば、帝国は内部の重要ポストに敵国のスパイを容易に潜入させた国と言ってしまう事に等しい。そうなれば、今まで手出ししてこなかった他国が帝国を狙ってくる可能性も増える。
それに、これだけ自信満々に『捕まえられない』と豪語している。多分だが、他に協力者がいて、彼を確保したら即座にクレバス王国に伝わる様になっている。とカメリア達は察してしまう。
眉間に皺を寄せて睨むカメリアと勝ち誇った顔をするユーリ。
だが、そんな事態になっているとは知らない、アダムは既にとんでもない行動をしていた。




