十七話 クレバス動乱―2 ※他視点
「変ですね」
カメリアと共に金の流れを細かくチェックしている最中難しい顔をしてカルマが告げた。
何処が変なのだろうかとカメリアは思いつつカルマを見つめる。
「何か分かったのか?私には特に分からなかったのだが」
「はい・・・確かにここ、賃金の総額については帳簿を見ても一致しています」
トントンと資料の文字を指さす。
総額が一緒と言う事は、不正に国の金を引き出しているという事は無い。
「先ず、騎士団についてはアダム卿が細かく整理している様でしたから間違いも無いのは確認できました。ですが、不自然なのは此処です」
「ん?アダム卿に対する給金上げ?普通の事だろう?」
財務大臣が許可したと書かれている。
つまり、彼の功績に見合う様に賃金を上げていたのか。
まぁ当然だろう。
実際額面は私より多い。
「本来ならですがね。私は専属メイドとしてアダム様と行動しているから分かります。アダム様が給金が上がった等と言う事実はありません。そしてこの書類に関しては少なくとも私は知りません」
「何を言っている?いや、そもそもこの資料は財務大臣からアダム卿にも共有されている書類なのだろう?だとしたら、額面が違えばアダム卿は直ぐに調査するだろうに」
実際の支給と書類の額面が違えば何かあるだろうと動くだろうとカメリアは考える。
ただカルマは「こちらを」と言ってもう一つの書類を取り出しカメリアに手渡す。
「先ほど執務室から持ってきました。アダム様へ共有されていた書類です」
正式な書類を表す印章入りのそれを受け取り、中身を確認していく。
「何!? 違うじゃないか!」
「えぇ。アダム様の給金と賃金の総額が乖離しています」
まじまじと見つめるカメリア。
どうなっていると驚愕する。なんせ、今、アダム卿に支払われている実際の給金は少なすぎる。
「財務大臣補佐より少ないぞ?どうなっている」
「えぇ。こんな少ないとは、私も初めて知りました・・・良く今まで国に仕えていますよ」
そこらの普通の大臣ならとっくに国を見限り他国に逃亡するくらいだと二人は思う。
実際、彼の優秀さならどの国でも重要なポストに付けるだろうと。
「ただ、これで分かったな」
「はい。本来支払われるはずの給金が他者に流れています」
そして、帳面を弄れる人間は限られている。
財務を管理している人間か、もしくは書類をすり替えられる存在だ。
「この帳簿があると言う事は財務大臣は問題無いかと思います。だとすると、財務大臣から渡った書類を毎回すり替えアダム卿に提出出来る存在ですね」
「アダム卿に提出しているのは誰だ?」
そいつが犯人だろうと考えたカメリアに首を振って「いえ、毎回別の方が持ってきています」と告げるカルマ。それが指し示す答えは一つだけだった。
「つまり・・・隠密に長けた存在」
カルマの瞳が暗く落ちる。
「諜報部でしょう。予想通りですね」
自身が諜報部に所属しているから、余計に思うところがあるのだろうとカメリアは思う。
もし、この改ざんを騎士団の人間が行っていたら、自分だって怒りでどうにかなってしまうと。
「諜報部だとすると・・・誰だ?カルマは違うとして」
「クリスも違うでしょう。隠密は得意ですが、この様な改ざんは不得手ですし」
そもそも血の繋がった存在で、幼少期から共に過ごしてきた家族だからか、クリスの潔白は確信している様子だった。それにカメリアとしても、クリスは白だと直感している。
「そもそもだ。これをする意図は何だ?改ざんして・・・犯人になんの得がある?」
「そこですね。単純に金に目が眩んだか・・・でも」
カルマがそこで言葉を区切る。
カルマが考えている事はカメリアにも分かっていた。これが、単純に汚職だとして、クレバス王国と繋がるなど、考えにくい。
金欲しさにアダム卿の給金を抜き取った存在が諜報部に居るとした場合は。
「嫌な予感がしますね」
「あぁ。それにアダム卿がクレバス王国に向かった事も何か関係があるだろうな」
もし、血生臭い何かが起きるとしたら十中八九、クレバス王国内で起きるだろう。
そうなった時、クリスだけで対応できるか?と不安が募るカメリア。
「失敗したな。こんな事なら、アダム卿の反対を押し切ってでも私か魔法師団長を付けるべきだった」
「そんな事をしたら、本当に戦争になりますよ」
カルマの忠告は最もだ。
けれど、そうなったとしても、アダム卿を守れるのであれば仕方ないと感じるカメリアに「それに、アダム様なら、何とかするでしょう。でなければ、行きませんよ」と告げる。
「そう、だな。すまない」
「いえ。気持ちは分かります。さて、こちらも直ぐに対処しましょう」
「あぁ。諜報部の人間に心当たりはあるのか?」
犯人が諜報部に居るのは、ほぼ確定だとして、肝心の個人が特定出来なければ手詰まりだ。
だが「えぇ。直ぐに見つけますよ」と自信に満ちた様子でカルマが笑う。
「分かるのか?」
「えぇ。簡単ですよ。これで色々納得出来ましたから」と告げ立ち上がる。
「では、団長。行きましょうか・・・裏切り者への制裁に」




