十三話 アダム
クレバス王国都市。
戦争から時間が経ったこの地は徐々に活気を取り戻しつつあった。そんな都市に降り立った一人の男。
アダムは微笑みを浮かべて都市を見回していた。
此処に来るまで随分大変だったと思いながら。
「随分活気があるね。良い事だ」
「えぇ。何とか復興しつつあると言った所ですけどね」
隣に立っているノエル嬢が感慨深そうに告げる。多分大変だったんだろうな....クレバス平原の戦争は随分と泥沼展開だったと聞く。
ぶっちゃけ戦争とか面倒だよ。
世界平和が一番良い。
裏切るつもりの人間だけど、それでも平和と言うのは良い物だ。
「それにしても良かったのですか?お一人で隣国に来るなんて」
あぁそれね。
だって、誰かが着いてきたら俺の本当の目的が達成できないんだもの。
「構わないよ。それに、一応今は観光と言う名目だからね。一人旅と言うのも悪くないさ」
大げさに身振り手振りで惚ける。
それを見て苦笑いを浮かべるノエルは、首を振る。
「観光ですか・・・それで、今日はどうされるのですか?」
「あぁ、今日は流石に長旅で疲れたからね。宿にでも泊まろうかと思っているよ」
何処か安い宿無いかな。
流石に、他国の人間が王国の城に泊まるなんて無理だし、まぁノエルを篭絡したらガッツリ泊まるけど。なんせ金が無いから。
「そうですか。でしたら、明日よければお時間を頂けないでしょうか?」
「うん?あぁ構わないよ」
デートの誘いかな?
でも、そんな雰囲気じゃないし。
「ではその際に教えて頂けますか?色々と」
ふむ。やはりこれはデートの誘いかもしれない。
俺の事を知りたいって事だろ?
ならば、ここは。
「あぁ構わないとも。俺としてもノエル嬢とは一度ゆっくり話したいと思っていたからね」
爽やかな笑みを浮かべて彼女を見つめる。
目を見て話すのはナンパの極意だと本に書いてあったし。
「ありがとうございます。では、今日はどちらに泊まる予定でしょうか?教えて頂ければ明日お迎えに伺いますよ?」
「いや、それには及ばないよ。一応国の大臣として来ているってわけでも無いからね。明日準備が出来たら城に行くさ」
「そうですか?では、城の兵にはその様にお伝えしておきます」
まぁデートの待ち合わせに女の子に迎えに来させるのも悪いだろうし。
それにしてもデートか。
なら宿を探すついでにデートスポットでも探しておこう。
「あぁ頼む。それじゃあ今日は此処で解散としようか」
「はい。では、明日」
礼儀正しくお辞儀して笑い、去っていく彼女を後目に俺も歩き出す。
さて、デートスポット探しアンド本命の裏切りプレイ仕込みをしますか。
此処であれば監視の目も無いし、帝国国民も居ない。
つまり、やりたい放題なのだ。暗殺依頼の自作自演は正直不発感が強い。
何故かカルマは俺が出した暗殺依頼の方は調べていないみたいで、報告も無いのだ。
ちゃんと調べてほしい物である。
暗殺依頼の期間も過ぎてしまったし、金も使ってしまった。
どんな物事をするにも金が要る。
なので、一番成功確率の高い商売をしよう。
魔物討伐とかは無理。
だって俺弱いもん。
だが俺には前世の知識がある。
『こ、これは何ですか?』『ふ・・・マヨネーズさ』なんて。
マヨネーズなんて作った事無いけど。
一度はやってみたいと思っていたし、それに懐が温まればその分出来る事も増えていく。
ただ一つ問題が起きている。
いや、と言うか今気づいた。
チラリと隣を見る。
何故か俺を見ている黒髪黒目の女の子。
いや、女の子かどうかは良く分からないけれど。
どうして君が居るんだろうクリス。
「どうして君が居るんだい?と言うか何時から?」
「依頼があったので。来たのは今です」
―― 依頼?つまり暗殺依頼があったのか!?
「俺の暗殺依頼かな?」
「いえ、勿論違いますよ」
ふむ。つまり、クレバス王国の誰かの暗殺か。
でも、正直今。この国の人間を暗殺しても意味が無いと思うけどね。
「そうか。では、頑張ってくれ」
「はい。勿論です」
クリスに声を掛けて歩き出す。
何故か、着いてくるクリス・・・何で?
「何で着いてくるのかな?」
「?お守りする為ですが」
つまり、今回の依頼って俺の護衛?
誰がそんなウザい事をしたんだ?・・・そうか!
俺の護衛を依頼するなんて事を暗殺組織にするのは、カルマくらいだ。
つまりカルマの嫌がらせだな。
「そ、そうか。まぁ分かった」
「はい。所でこれからどちらへ?」
しょうがない。何処かで撒こう。じゃないと俺の裏切りプレイに支障が・・・いや?どうせならこの際彼女を味方にするのも悪くないな。どうも、彼女は実力があるみたいだし・・・暗殺組織に置いておくのは勿体ない。
「まずは宿に向かおうと思っていてね」
「え? 宿は逆方向では?」
やはり有能だ。
既にこの街の宿まで特定している。それも恐らくリーズナブルな宿だ。だって彼女は暗殺組織の末端だろうし、給料もそんなに貰っていないだろう。
「そうかい?いや、助かったよ」
「いえ、もしよければご案内します」
そう言って案内してくれる彼女に付いていく。
やはり機を見て彼女を俺の仲間にするべきだ・・・クリスとノエル嬢の二人を俺の忠臣にして裏切りプレイを捗らせるのだ。
じゃないと、いい加減俺の懐事情が大問題になってしまう。




