十一話 オルトロス攻防戦―5 ※他視点
駆け出すノエルの動きは先ほどより遅い。
強烈な一撃を受けた彼女だったが、それでも戦姫の通り名を持つ彼女は持ち前の俊敏さを発揮してカメリアを翻弄する。
アダムから渡された模擬剣を魔力で強化して、カメリアの背後を取り、斬りかかる。
だが、何故か彼女に触れる前に剣が止まる。まるで何か壁があるかのように。
「くっ! どういう事?」
「ふむ。やはり便利だなこれは」
余裕たっぷりの様子でカメリアの必殺の剣が振り下ろされる。それを寸前で避けると距離を取り、額の汗を拭いながらノエルはジッと彼女を観察して、そして気付く。
「まさか防御魔法?」
「御名答だ」
ありえないとノエルは驚愕する。
身体強化も施した上で防御魔法を同時に使うなど脳の処理が追いつかない筈だと。
「何故!? そんなの出来るわけがないじゃない!」
「まぁ普通は無理だ」
「なら何で使えるのよ」
ギリッと歯軋りしながら睨むノエルに肩をすくめるカメリア。暗に答える気は無いと言いたげな様子だ。
「答える気は無いな。ノエル嬢なら出来そうだからね。ただ」
風が吹く。
最速で動くカメリアの攻撃。辛うじて受け止めたが、威力が桁外れの攻撃を受け、吹き飛び、大きな音を立てて壁に激突する。
「ぐっ!・・・げほっ」
「ただ、一つ言うなら彼のおかげだ」
彼?まさかアダム卿の?と荒い呼吸をしながら思考するノエル。
ノエルもアダムの事は知っていた。
セブルディア帝国の魔王 アダム・グローエン。
今回の計画で最も障害となると考えていた。
そして、現にこうして追い詰められている。カルマの事といい、間違いなく彼はこの状況を作り上げていた。
「彼が居れば私達の・・・いえレイン王女様もきっと」
「だろうな。帝国が強国足り得るのは彼の功績が大きい」
「そして、彼は知っている」
知っている?何を?と訝しげに見つめるノエル。それとは対照的に確信したように見つめるカメリア。
「先程言っていたな。我が国が裏切ったと」
「えぇ。だから私は貴方を殺すためにっ!?」
目を見開き驚愕するノエル。
ノエルはここに来て異常な事に気付いた。
(アダム卿は私が内通者だと知っていたのに何故殺さなかった?)
あの牢獄に居た際の封印の首輪は本物だった。
本来なら然るべきタイミングで、騎士団に情報を流して私を助けさせ、カメリアを殺す手筈だった。
その為に本物の首輪をしていたのだ。
もし最初から私の目的が彼女達の抹殺だと分かっていたのなら、何故あの時殺さなかった?弱体化した私を殺すなど容易い・・・それにもう一つ疑問があった。
チラリと手に持ってある渡された模擬剣を見つめる。
これだってそうだと。
「気付いたか?君のことはアダム卿は知っていた・・・だが殺さずにこの場に連れてきた。卿の事だ、どうせ私と数合撃ち合えば冷静になるだろうと思ったのだろうな」
警戒を勝手に解くカメリア。
既に戦闘は終わったと言いたげに。
「何故?」
「ん?それはどっちの意味だ?」
戸惑うノエル。
「どっちもよ」
「一つはもう戦う意味がないからだ」
やれやれと首を振るカメリア。そして、指を立ててノエルが疑問に思ったもう一つも説明した。
「私はアダム卿では無いからノエル嬢に何が起きたのか知らないが、アダム卿は知っている。そしてそのアダム卿が自ら動いたのは恐らくノエル嬢とクレバス王国の為だろう」
そんな馬鹿な、と目を見開き驚愕するノエル。
それに対して「彼が動くのは何時も決まって私達だけでは対処できない時でな」と告げるカメリア。
「だが、彼に本気で動かれると此方としても厄介なのでな。教えてもらおうか何があったのかを」
真剣な様子で見つめるカメリア。
彼女の性格はノエルは知っている。だからこそこんな中途半端な襲撃になってしまったのも事実だ。そう考えたノエルも警戒を解く。
「一ヶ月前の事よ。私の所に告発状が届いたの」
そう言って思い出すように話す。あの時の絶望を。
「王女の暗殺依頼。一つはダイス国の指導者マーガレット・ダイス。そして、もう一つは」
言葉を区切りスッと指さすノエル。
「セブルディア帝国よ」
「何!? そんな訳は無いだろ!?あの二重暗殺依頼は確かダイス国と貴殿の国に仕える貴族だった筈だ」
首を振って否定するカメリア。
当時、諜報部が仕入れた情報は確かな物だったと確信している。もしそれが本当だとしたら諜報部が嘘をついた事になるのだ。
「その話詳しく聞かせてください」
ジッと部屋の片隅で様子を伺っていたカルマがカメリアの隣に移動する。諜報部である彼女からしても看過出来ない話だと思ったからだ。
「そもそも告発状と言ったが差出人は?」
「分からないわ」
「では、そんな物をどうして信用する?」
「えぇ。差出人不明の告発状を信用する様な方ではないと思ってましたが」
「証拠があったのよ。しっかりとセブルディア帝国の印章入りのね」
今度こそ狼狽える二人。
印章は偽造できない。つまり本物いやそれよりも、と二人は顔を見合わせる。
「印章、だとすると」
「えぇ。印章を使えるのは国の中枢にいる人間だけです」
「その依頼人は誰なんだ?」
「本当に貴方じゃないのね」
「なんだと?」
「おかしいとは思ったの。貴方の筆跡と少し違っていたから」
「まさか、私の名前が入ってたのか!?」
大問題だとカメリアとカルマは理解していた。
つまり、国の中にクレバス王国を崩壊させようとした人間がいる・・・いや?とそこで考えを変えたカメリア。
同じ結論に至ったカルマも呆れたようにため息をついた。
「その告発状を送った人間がクレバス王国との亀裂を生むために行った・・・はぁそう言うことですか」
「自作自演か」
何故アダムが自作自演の暗殺依頼を行ったのかを理解した二人は『直接言ってくれればいいのに』と思った。つまり、自作自演の救出劇を行ったと世間に公表したい存在と、自作自演を行いクレバス王国に友好的関係を築こうとした馬鹿がこの国に居る。もし、それが本当であれば。
「クリス」
その場に現れるクリス。
既に男共は騎士団に引き渡して戻って来ていて、その場に跪く。
「アダム様は?」
「はっ。既に城に戻られております」
残ってくれていても良いのにと二人は思いつつ「ノエル嬢、疑う気持ちは分かるがここは一旦私を信じてアダム卿と面会して欲しい」と代表してカメリアが嘆願する。
先程までの会話を聞いていたノエルは「わかりました。ですが、場合によっては今度こそ斬り伏せます」と告げ、カルマに向けて剣を投げ渡す。
アダムの裏切りプレイから発展したオルトロス攻防戦の幕が終わる。




