第97話 勇者と魔王
玉座の間を漆黒の魔力が満たす。
魔王はゆっくりと剣を抜いた。
その剣は黒耀によく似た漆黒の刀身を持っていた。
「その剣……。」
りょうが息をのむ。
魔王は静かに答える。
「黒耀の原型。」
「歴代の魔王が受け継いできた剣だ。」
魔王は構える。
「勇者りょう。」
「全力で来い。」
りょうも黒耀を構えた。
「聞けぇぇぇ!!」
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「世界を守るため、お前を倒す!」
次の瞬間。
二人は同時に地面を蹴った。
ガキィィィン!!
漆黒と漆黒。
二本の剣が激突する。
衝撃だけで玉座の間の柱に亀裂が走る。
魔王は笑う。
「強くなったな。」
「ノクスの試練を越えた意味がある。」
りょうは押し返す。
「ノクスの想いも背負ってる!」
その時。
魔王の魔力が爆発する。
「魔王解放。」
漆黒の鎧が魔王を包み込む。
歴代最強の姿。
その圧力に空間そのものが軋む。
「りょう!」
アリシアが支援魔法を放つ。
「身体能力強化!」
「魔力強化!」
紗耶も剣を構える。
「私も行く!」
しかし。
魔王は首を横に振った。
「まだだ。」
「これは勇者の試練。」
「誰も手を出すな。」
りょうは静かにうなずく。
「ありがとう。」
「みんな。」
「ここは俺がやる。」
紗耶は不安そうに見つめながらも、一歩下がった。
「……絶対、帰ってきて。」
「約束。」
りょうは笑った。
「もちろん。」
再び剣がぶつかる。
何十合。
何百合。
互いに一歩も譲らない。
だが次第に、黒耀の鼓動が速くなる。
ドクン。
ドクン。
りょうの右腕に黒い紋様が浮かぶ。
魔王はその様子を見て、小さくつぶやく。
「……来るか。」
ついに黒耀が叫ぶように輝く。
漆黒の鎧が再びりょうの身体を覆い始めた。
紗耶が叫ぶ。
「りょう!」
しかし今回は違った。
りょうは深く息を吸い、静かに目を閉じる。
そして、鎧に語りかける。
「お前は俺の力だ。」
「でも。」
「俺の心までは支配させない。」
漆黒の魔力が荒れ狂う。
それでも、りょうの瞳は赤く染まらない。
仲間を思う気持ちが、鎧の侵食を押し返していた。
魔王は満足そうに笑う。
「それでいい。」
「力を拒むな。」
「力に飲まれるな。」
「支配するんだ。」
りょうは黒耀を握り直す。
「行くぞ!」
漆黒の鎧をまとった勇者と、漆黒の鎧をまとった魔王。
二人は最後の一撃を放つため、同時に駆け出した。
その激突が、この世界の運命を決めることになる。




