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異世界と厨二病  作者: シュレディンガー


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第94話 第三の試練――もう一人の勇者

りょうの手が、漆黒の扉に触れる。


ギィ……。


ゆっくりと扉が開いた。


その先は、闇だった。


光のない、静かな世界。


中央に、一人の男が立っていた。


漆黒の鎧。


黒い剣。


そして、どこか悲しげな瞳。


りょうは思わず息をのむ。


「……誰だ。」


男は静かに答えた。


「勇者。」


「かつて、お前と同じように呼ばれた者だ。」


紗耶が小さくつぶやく。


「まさか……。」


アリシアも驚きを隠せない。


「昔の勇者……。」


男は黒い剣を地面に突き立てる。


「私は世界を救った。」


「魔王を討った。」


「そして……。」


静かに玉座へ目を向ける。


そこには、以前りょうが幻で見たものと同じ魔王の玉座があった。


「私は、その玉座に座った。」


りょうは一歩前へ出る。


「どうして?」


男は苦しそうに笑う。


「一人だったからだ。」


「誰も帰りを待っていなかった。」


「誰も、私の隣にはいなかった。」


「私は、守るものを手に入れるため……。」


「魔王になった。」


その言葉に、全員が言葉を失う。


男はりょうを見つめる。


「勇者。」


「お前も漆黒の鎧をまとった。」


「ならば聞こう。」


「もし、お前の仲間が全員いなくなったら。」


「それでも勇者でいられるか?」


静寂が流れる。


りょうは紗耶を見る。


アリシアを見る。


ルナを見る。


そして、笑った。


「……分からない。」


「そんな未来が来たら、苦しいと思う。」


「泣くと思う。」


「立ち直れないかもしれない。」


男は静かにうなずく。


「正直だな。」


りょうは続けた。


「でも。」


「だからって。」


「魔王にはならない。」


「仲間が守ろうとした世界を。」


「俺が壊すわけにはいかない。」


男は目を閉じる。


その言葉を、噛みしめるように。


しばらくして、小さく笑った。


「そうか。」


「私は……。」


「その答えを聞きたかった。」


漆黒の鎧が、少しずつ光になって崩れていく。


「勇者。」


「お前には、帰る場所がある。」


「その手を、決して離すな。」


男の姿は光となって消えた。


最後に残ったのは、一言だけ。


「孤独に負けるな。」


世界が再び純白へ戻る。


ノクスは静かに立っていた。


「三つの試練。」


「すべて、見事に乗り越えました。」


りょうはまっすぐノクスを見る。


「約束だ。」


「真実を話してもらう。」


ノクスは長い沈黙のあと、ゆっくりとうなずいた。


「……はい。」


仮面に手をかける。


「まず、一つだけお伝えします。」


「あなたがまとった《漆黒の鎧》は、呪いではありません。」


「ですが――」


「祝福でもありません。」


その言葉とともに、ノクスは初めて自らの素顔を見せようと、ゆっくりと仮面を外し始めた。

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