第92話 第一の試練――後悔の扉
ギィィ……。
黒い扉がゆっくりと開く。
眩しい光があふれ、りょうたちは思わず目を閉じた。
目を開くと、そこは懐かしい景色だった。
王都でも魔王城でもない。
日本の住宅街。
「ここ……。」
りょうは息をのむ。
「俺の……故郷?」
見慣れた通学路。
コンビニ。
夕焼けに染まる公園。
すべてが記憶そのままだった。
「りょう!」
後ろから声が聞こえる。
振り返ると、中学生の頃の友人たちが笑っていた。
「サッカー行こうぜ!」
「早く!」
その笑顔は、かつて失った日常そのものだった。
りょうは思わず一歩踏み出す。
だが、その瞬間。
紗耶が腕をつかむ。
「ダメ。」
「これは幻。」
りょうは我に返る。
「あ……そうだった。」
すると景色が歪む。
友人たちの姿が消え、一人の少年が現れる。
それは――中学生の頃のりょうだった。
俯き、誰とも目を合わせず、一人で歩いている。
今のりょうは、その姿を静かに見つめる。
「あの頃の俺……。」
幼いりょうがぽつりとつぶやく。
「どうせ俺なんて。」
「誰にも必要とされてない。」
その言葉は、今でも胸に刺さる。
紗耶は心配そうにりょうを見る。
「……大丈夫?」
りょうはゆっくりとうなずく。
「ああ。」
「昔は本気でそう思ってた。」
すると、ノクスの声が世界に響いた。
「勇者。」
「第一の試練。」
「過去を否定するか。」
「受け入れるか。」
幼いりょうが顔を上げる。
「未来の俺。」
「教えてよ。」
「俺は変われた?」
りょうは静かに歩み寄る。
しゃがみ込み、昔の自分と目線を合わせる。
「変われたよ。」
「時間はかかった。」
「つらいこともたくさんあった。」
「でも。」
笑顔で続ける。
「最高の仲間ができた。」
「守りたい人もできた。」
「だから。」
「お前は一人じゃない。」
幼いりょうの目から、一筋の涙がこぼれる。
「……そっか。」
その姿は、光となって消えていった。
純白の世界へ戻る。
ノクスは静かにうなずいた。
「見事です。」
「過去に囚われることなく、受け入れましたか。」
りょうは黒耀を握る。
「過去は変えられない。」
「でも。」
「未来は変えられる。」
ノクスはわずかに口元を緩めた。
「その答えで十分です。」
純白の世界に、二つ目の扉が静かに姿を現した。
その扉の向こうには、さらに過酷な試練が待っている。




