第88話 静かな帰還
アルカディア王国への帰路。
山道を歩く一行に、戦いの緊張は少しずつ消え始めていた。
ルナは花を摘みながら歩き、アリシアは薬草を集めている。
紗耶はりょうの横顔を見つめた。
「……本当に大丈夫?」
りょうは笑って親指を立てる。
「大丈夫!」
「ほら、この通り!」
そう言って笑うものの、右手がほんの一瞬だけ震えた。
その震えに気付いたのは、りょう本人だけだった。
(疲れが残ってるだけ……だよな。)
そう自分に言い聞かせる。
王都へ戻ると、多くの人々が歓声で迎えた。
「勇者様、お帰りなさい!」
「四天王第二席を倒したぞ!」
「ばんざーい!」
りょうは照れくさそうに笑い、いつものように黒マントを翻した。
「聞けぇぇぇ!!」
子どもたちが目を輝かせる。
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「みんな、ただいま!」
王都は大きな拍手に包まれた。
その夜。
王城では盛大な祝宴が開かれた。
王は杯を掲げる。
「勇者りょう、そして仲間たちに感謝を!」
「乾杯!」
「乾杯!」
笑い声が響く。
久しぶりの穏やかな時間だった。
宴の途中。
ガイウスがりょうを中庭へ呼び出した。
月明かりの下、二人だけになる。
ガイウスは静かに口を開いた。
「今日の戦い。」
「お前は何を感じた?」
りょうは少し考えて答える。
「……力かな。」
「強い力は、使い方を間違えると怖い。」
ガイウスは満足そうにうなずいた。
「それを忘れるな。」
「力とは、振るうためではなく、守るためにある。」
りょうは真剣な表情で答えた。
「はい。」
その様子を、遠くの屋根からノクスが見つめていた。
「守るための力……ですか。」
仮面の奥で、悲しそうに目を閉じる。
「勇者。」
「どうか、その想いを最後まで忘れないでください。」
彼は風に溶けるように姿を消した。
翌朝。
王城に一通の報告が届く。
伝令の騎士が息を切らして駆け込んできた。
「陛下!」
「大変です!」
王が立ち上がる。
「何事だ!」
騎士は震える声で告げた。
「四天王第一席――バルガスが動きました!」
謁見の間の空気が一変する。
ガイウスは静かに目を閉じた。
「……ついに来たか。」
りょうは黒耀を握りしめる。
「次は。」
「四天王最強との戦いだ。」
その瞳には、決意の炎が宿っていた。




