第87話 敗者の誇り
鋼鉄要塞の門が開く。
魔王軍の兵士たちは武器を構えたまま動けなかった。
将軍アイゼンが敗れた。
その事実を受け入れられずにいた。
アイゼンは静かに右手を上げる。
「武器を下ろせ。」
兵士たちは戸惑う。
「ですが将軍!」
「命令だ。」
その一言で、全員が剣を収めた。
アイゼンはりょうの前まで歩いてくる。
「勇者。」
「約束通り、この要塞はお前たちに明け渡そう。」
りょうは首を横に振った。
「いや。」
「俺たちは占領しに来たんじゃない。」
「戦いを止めに来た。」
アイゼンは少し驚いたように目を細める。
「甘いな。」
「……だが、その甘さが、お前の強さか。」
ガイウスが前へ出る。
「アイゼン。」
「お前ほどの武人なら分かるはずじゃ。」
「戦とは、勝っても負けても多くを失う。」
アイゼンは静かに頷いた。
「ああ。」
「だから私は、兵を無駄死にさせたくなかった。」
その言葉に、部下たちは黙って頭を下げた。
彼らは知っていた。
アイゼンがいつも最前線に立ち、自分たちを守ってきたことを。
その頃。
要塞の最上階。
ノクスは一人、窓から戦場を見下ろしていた。
「終わりましたか……。」
その背後に、黒い魔法陣が現れる。
魔王からの通信だった。
「ノクス。」
低く重い声が響く。
「第二席は敗れたようだな。」
ノクスは片膝をつく。
「はい、魔王様。」
「勇者は?」
一瞬だけ沈黙が流れる。
「……《共鳴》が目覚めました。」
魔王は小さく笑った。
「そうか。」
「ならば計画は次の段階だ。」
ノクスの拳がわずかに震える。
「……承知しました。」
通信は途切れた。
誰もいなくなった部屋で、ノクスは仮面に手を添える。
「魔王様。」
「あなたは人類を滅ぼそうとしている。」
「ですが……。」
窓の外では、仲間に囲まれて笑うりょうの姿が見えた。
「私は。」
「あなたの望む結末には、させません。」
その決意は、誰にも聞こえなかった。
要塞を後にするりょうたち。
紗耶が隣を歩く。
「今日は本当に心配したんだから。」
りょうは頭をかきながら笑う。
「ごめん。」
「でも、みんながいてくれたから戻れた。」
ルナが無邪気に言う。
「じゃあ、もう一人で無理しちゃダメ!」
「うん、約束。」
アリシアも微笑む。
「その約束、忘れないでくださいね。」
仲間たちの笑顔に囲まれ、りょうも笑顔を見せる。
しかし、その右手を握る黒耀は、誰にも気づかれないほど微かに――
ドクン。
と、小さく脈打っていた。




