第8話 炎獄将軍の影
魔王討伐の旅が始まって一か月。
最初の目的地は、王国最北端の砦――グランベル砦だった。
第一の四天王、炎獄将軍バルガスが率いる魔物の軍勢に包囲されているという。
砦へ向かう途中。
焼けた荷馬車。
崩れた家。
避難する人々。
りょうは拳を握った。
「これ全部……。」
兵士が苦しそうに答える。
「バルガス軍だ。」
「町を滅ぼしながら進軍している。」
紗耶は黙って景色を見つめていた。
その横顔は、いつになく険しい。
砦に到着すると、団長が二人を迎えた。
「待っていた。」
「勇者候補殿。」
団長は紗耶を見る。
「"見えない剣姫"の噂は聞いている。」
紗耶は軽く頭を下げた。
りょうにも視線が向く。
「……君も同行者か。」
「はい!」
りょうは元気よく返事をした。
団長は少し困ったように笑うだけだった。
その反応が、りょうには少しだけ刺さる。
夜。
見張り台から平原を見る。
無数のたいまつが揺れていた。
「あれ全部……。」
「魔王軍だ。」
団長が答える。
「数は三千。」
「こちらは五百。」
絶望的な戦力差だった。
翌朝。
魔物の軍勢が進軍を開始する。
ゴブリン。
オーク。
巨大な魔獣。
そして、その中央を歩く一人の男。
三メートル近い巨体。
真紅の鎧。
巨大な戦斧。
炎のような赤い髪。
「我が名は――」
地鳴りのような声が響く。
「炎獄将軍バルガス!!」
魔物たちが一斉に雄叫びを上げる。
兵士たちの顔が青ざめた。
「来た……。」
「四天王だ……!」
りょうは思わず木剣を強く握る。
(あれが……四天王。)
威圧感だけで足が震える。
戦う前なのに、本能が告げていた。
勝てない。
バルガスは砦を見上げ、豪快に笑った。
「人間ども!」
「強き者だけ前へ出よ!」
「弱者は踏み潰すだけだ!」
その一言だけで、多くの兵士が動けなくなる。
りょうも息をのんだ。
すると、その前へ一歩踏み出す人影があった。
紗耶だった。
「私が相手になります。」
りょうは驚く。
「紗耶!」
紗耶は振り返らず、小さく言う。
「大丈夫。」
その言葉に、りょうは何も返せなかった。
自分も隣に立ちたい。
でも、今の自分では足手まといになる。
その事実が、胸を締めつけた。




