第9話 炎獄将軍バルガス
砦の門が開く。
砂煙が舞う戦場へ、紗耶は一人で歩き出した。
兵士たちは固唾をのんで見守る。
りょうも門の上からその背中を見つめていた。
(勝ってくれ……。)
「ほう。」
バルガスは紗耶を見下ろす。
「小娘が我の相手か。」
「……。」
紗耶は静かに剣を抜いた。
「あなたを止めます。」
「面白い!」
バルガスが戦斧を振り上げる。
地面が砕けるほどの一撃。
その瞬間。
パチン。
「クローズド・クロック。」
世界が止まった。
砂煙も。
炎も。
バルガスも。
誰もその事実には気付かない。
紗耶だけが静かに歩き、バルガスの鎧の隙間へ剣を滑り込ませる。
そして時間を戻す。
ドンッ!
「……ぬ?」
バルガスの胸から血が飛んだ。
「何だと?」
周囲の魔物も兵士も、何が起きたのか理解できない。
「今のは……。」
「見えなかったぞ!」
「いつ斬ったんだ?」
誰にも分からない。
知っているのは、王とその側近、そしてりょうだけ。
バルガスは笑った。
「ハハハハハ!」
「久しぶりだ!」
「傷を負わせた人間は!」
炎をまとい、さらに大きくなる。
「第二形態だ。」
ガイウスが低くつぶやく。
「まずい……。」
バルガスの力はさらに増した。
一撃で地面が割れる。
紗耶は何度も時間停止を使い、攻撃をかわしながら傷を与えていく。
しかし。
「……はぁ。」
息が乱れ始めた。
時間停止は万能ではない。
魔力を大きく消費する。
使えば使うほど、体力も削られていく。
門の上から見ていたりょうは歯を食いしばる。
(まただ。)
(また紗耶が一人で戦ってる。)
(俺は何もできない。)
拳を握る。
爪が食い込むほど強く。
「くそっ!」
飛び出そうとした、その肩をガイウスが掴んだ。
「行くな。」
「でも!」
「今行けば死ぬ。」
「それでも!」
「足手まといになるだけだ。」
その一言が、りょうの心を深くえぐった。
戦場では、紗耶の肩から血が流れていた。
時間停止を解除した一瞬を狙われたのだ。
「やるな、小娘。」
バルガスは不敵に笑う。
「だが、そろそろ限界だろう。」
紗耶は剣を握り直す。
(まだ……倒れられない。)
その姿を見た瞬間。
りょうの胸に、今まで押し込めていた感情があふれ出した。
「なんでだよ……。」
誰にも聞こえない声。
「なんで、全部紗耶なんだ。」
「なんで俺じゃない。」
「なんで俺は……こんなに弱いんだ。」
その目には悔しさと、嫉妬と、無力感が入り混じっていた。




