第10話 届かない背中
「紗耶ぁぁぁ!」
りょうはガイウスの制止を振り切って戦場へ飛び出した。
「りょう!」
紗耶が叫ぶ。
「来ちゃだめ!」
しかし、もう遅かった。
バルガスはりょうを見つけると、口元を歪めた。
「ほう。」
「貴様が小娘の仲間か。」
巨大な戦斧がゆっくりと持ち上がる。
「弱い者ほど、守られる。」
「ならば、先に貴様を潰してやろう。」
「逃げろ!」
兵士たちが叫ぶ。
だが、りょうは逃げない。
木剣を構え、真正面から突っ込んだ。
「うおおおおっ!」
今まで積み重ねてきた剣術。
ガイウスに教わった足さばき。
体術。
すべてをぶつける。
ガキィン!!
木剣が戦斧に当たった瞬間、粉々に砕け散った。
「ぐあっ!」
りょうは吹き飛ばされ、地面を何度も転がる。
口から血があふれた。
「りょう!」
紗耶の表情が変わる。
次の瞬間。
パチン。
「クローズド・クロック。」
止まった世界で、紗耶はりょうを抱えて安全な場所へ運ぶ。
そして再びバルガスへ斬りかかる。
時間が動き出す。
バルガスはまた傷を負う。
「チッ……。」
だが、その代償は大きかった。
紗耶の呼吸は荒く、足元もふらついている。
何度も時間を止めたことで、魔力が限界に近づいていた。
りょうはかすむ視界で、その姿を見た。
(また助けられた。)
(結局、俺は何もできなかった。)
悔しさで涙がにじむ。
ガイウスがそばにしゃがみ込む。
「見たか。」
「……。」
「今のお前では勝てん。」
「……はい。」
「だが、今日のお前は逃げなかった。」
りょうは苦笑する。
「逃げなかっただけです。」
「それで十分だ。」
ガイウスは静かに言った。
「強くなる者とは、負けた現実から目を逸らさぬ者だ。」
戦場では、紗耶がついに膝をついた。
「はぁ……はぁ……。」
時間停止はあと数回が限界。
それでも立ち上がる。
「まだ……終われない。」
バルガスは豪快に笑った。
「素晴らしい!」
「その闘志、気に入った!」
戦斧を肩に担ぎ、叫ぶ。
「今日のところは退こう!」
魔物の軍勢が一斉に引き始める。
「次は本気で砦を落とす。」
「それまで、生き延びてみせろ!」
大地を揺らしながら、魔王軍は去っていった。
勝ったわけではない。
負けたわけでもない。
だが、誰もが理解していた。
今の二人では、四天王には届かない。
その夜。
りょうは一人、折れた木剣を見つめていた。
紗耶は傷だらけになりながらも、自分を助けてくれた。
その事実が、胸に重くのしかかる。
(もっと強くならなきゃ。)
(今度は、俺が紗耶を守る。)
その決意は、まだ小さな火種だった。
しかし、その火種は少しずつ、誰にも気づかれない形で大きくなり始めていた。




