第83話 鋼鉄将軍の誇り
アイゼンはりょうの目の前で足を止めた。
大剣を肩に担ぎ、静かに見下ろす。
「立て。」
「私は、お前を倒すためにここにいる。」
「倒れた者を斬るためではない。」
りょうは歯を食いしばる。
震える足に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。
「……ありがとう。」
アイゼンは首を横に振る。
「礼はいらん。」
「これは戦士としての礼儀だ。」
ガイウスが静かに微笑む。
「武人らしい男じゃ。」
ノクスも小さく頷いた。
「だからこそ……第二席なのです。」
りょうは黒耀を拾い上げる。
傷だらけの手で柄を握る。
「まだ……終われない。」
紗耶が隣に立つ。
「りょう。」
「一人じゃない。」
アリシアも杖を構える。
「最後まで支えます。」
ルナも小さく頷いた。
「私も。」
アイゼンは四人を見渡す。
「良い仲間だ。」
「だからこそ、その絆ごと打ち砕く。」
銀色の魔力がさらに膨れ上がる。
地面に亀裂が走る。
城壁が軋む。
兵士たちは思わず後退した。
りょうは深呼吸する。
(勝てない。)
(今のままじゃ。)
それでも剣を下ろさない。
「もう一回だ。」
「何度でも立つ。」
「勝つまで!」
黒耀が再び脈打つ。
ドクン。
ドクン。
今までより少しだけ強く。
りょうは一瞬だけ違和感を覚えた。
「……なんだ?」
黒耀から、まるで鼓動のような感覚が伝わる。
しかし戦いの最中、それを気にする余裕はなかった。
アイゼンが地面を蹴る。
「来るぞ!」
ガイウスの声が響く。
次の瞬間、アイゼンの姿が消えた。
「速い!」
ドゴォォォン!!
大剣が振り抜かれる。
りょうは咄嗟に受け止める。
だが、力負けした。
再び吹き飛ばされる。
黒耀は悲鳴を上げるように震えた。
ドクン。
ドクン。
その鼓動は、少しずつ強くなっていく。
塔の上から見守るノクスは、その音が聞こえたかのように顔を上げる。
「……始まった。」
仮面の奥で瞳が揺れる。
「ですが、まだ目覚めるな。」
「今ではない。」
その願いとは裏腹に、黒耀の鼓動はさらに激しくなっていく。
勇者自身も知らない運命が、ゆっくりと動き始めていた。




