第82話 届かない剣
銀色の魔力が荒れ狂う。
鋼化したアイゼンは、もはや人とは思えない威圧感を放っていた。
「来い。」
その一言だけ。
だが、それだけで空気が震える。
りょうは黒耀を強く握る。
(勝つ。)
(絶対に。)
黒マントを翻し、地面を蹴る。
「聞けぇぇぇ!!」
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「おおおおおっ!!」
「黒耀・双影天断!!」
漆黒の斬撃が一直線に走る。
ズガァァァン!!
土煙が舞い上がる。
全員が固唾をのんで見守る。
煙が晴れる。
アイゼンは――立っていた。
胸当てに一本の傷。
それだけだった。
「……見事。」
アイゼンは初めて笑った。
「私の鋼化に傷を付けたのは、お前が初めてだ。」
しかし次の瞬間。
ドンッ!!
大剣の一撃がりょうを吹き飛ばす。
「がはっ!」
黒耀が手から離れそうになる。
「りょう!」
アリシアが回復魔法を飛ばす。
紗耶も駆け寄る。
「大丈夫!?」
りょうは苦しそうに笑う。
「……全然、大丈夫じゃない。」
肋骨が折れている。
腕も震える。
立つことすら苦しい。
アイゼンはゆっくり近づく。
「終わりだ。」
大剣を振り上げる。
「眠れ。」
その瞬間。
紗耶が前へ飛び出した。
――《クローズドクロック》発動。
世界が止まる。
紗耶は必死にりょうを抱え、攻撃範囲の外へ運ぶ。
時間が動き出す。
ズドォォォン!!
大剣が地面を砕く。
あと一瞬遅ければ、りょうは真っ二つだった。
アイゼンは静かに息を吐く。
「……さすがだ。」
「その能力がある限り、お前たちは簡単には死なない。」
紗耶の額には汗が浮かぶ。
時間停止の連続使用で、魔力は限界に近い。
りょうは膝をついたまま拳を握る。
「くそっ……。」
「また守られた。」
黒耀を見る。
「俺は……。」
「結局。」
「紗耶がいないと何もできないのか……。」
その声は震えていた。
遠くから見守るノクスは、仮面の奥で目を閉じる。
「違います。」
「勇者。」
「まだ……その時ではありません。」
彼だけが知っている。
この絶望の先に、《共鳴》が待っていることを。
しかし、まだ覚醒してはいけない。
今ここで無理に目覚めれば、りょうは鎧に心を奪われてしまう。
ノクスは誰にも聞こえない声でつぶやく。
「耐えてください……。」
「あと一歩だけ。」
その言葉は風に消えた。
そしてアイゼンは再び大剣を構え、勇者へ静かに歩みを進める。
「立て、勇者。」
「その程度で終わる男ではないと、私は信じている。」




