第79話 鋼鉄要塞への進軍
数日後。
アルカディア王国の軍議室。
巨大な地図の前に、王国騎士団、冒険者ギルド、学院長、ガイウス、そしてりょうたちが集まっていた。
王が地図を指す。
「鋼鉄将軍アイゼンが、北方の《鋼鉄要塞グランヴァルト》に戦力を集結させている。」
「このままでは北部一帯が危険だ。」
りょうは黒耀を握る。
「……いよいよか。」
ガイウスは静かにうなずく。
「ああ。」
「お前にとって最大の試練になる。」
会議が終わり、出発前の夜。
りょうは一人、学院の中庭で黒耀を眺めていた。
「勝てるかな……。」
いつになく弱気な声だった。
そこへ紗耶が隣に座る。
「珍しいね。」
「りょうがそんな顔するなんて。」
りょうは苦笑する。
「アイゼンだけは違う。」
「あの人は、本当に強い。」
紗耶は優しく笑う。
「でも。」
「一人で戦うわけじゃない。」
りょうは紗耶を見る。
「そうだった。」
「俺には仲間がいる。」
紗耶は軽く拳をぶつける。
「うん。」
翌朝。
王都の北門。
大勢の人々が見送りに集まっていた。
子どもたちが叫ぶ。
「勇者さーん!」
りょうは満面の笑みで黒マントを翻す。
「聞けぇぇぇ!!」
街中に声が響く。
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「必ず勝って帰ってくる!」
歓声が上がる。
その頃、鋼鉄要塞。
アイゼンは玉座のような鉄の椅子に座っていた。
部下が報告する。
「勇者一行がこちらへ向かっています。」
アイゼンは静かに立ち上がる。
「迎え撃つ。」
「兵は無駄に死なせるな。」
「勇者は……私が相手をする。」
部下たちは一斉に頭を下げた。
廊下の奥。
ノクスが壁にもたれ、静かに目を閉じていた。
「……とうとう来ましたか。」
その仮面の奥には、悲しみが宿っている。
(勇者。)
(どうか耐えてください。)
(《共鳴》に呑まれずに……。)
彼だけが知る未来。
それは誰にも話すことのできない、あまりにも残酷な運命だった。
北へ向かう街道。
冷たい風が吹く。
りょうは遠くに見える黒い要塞を見据える。
「あそこに……アイゼンがいる。」
ガイウスは静かに答える。
「覚悟を決めろ。」
「次の戦いで、お前の運命は大きく変わる。」
その言葉の意味を、りょうはまだ知らない。
だが、胸の奥で黒耀がわずかに脈打った。
まるで、これから訪れる戦いを待ち望むかのように。




