第78話 束の間の日常
星霊の森での激闘から数日。
久しぶりに戦いのない朝を迎えた。
アルカディアの市場は今日も賑わっている。
「りょう、買い物付き合って。」
紗耶が声を掛ける。
「もちろん!」
「漆黒の覇王が荷物持ちを務めよう!」
「威張って言うことじゃないでしょ。」
紗耶が笑いながら軽く肩を小突く。
アリシアもくすりと笑った。
「では私もご一緒します。」
ルナは露店に並ぶ果物を興味深そうに見つめている。
「これ……食べられるの?」
「リンゴだよ。」
「甘くておいしいぞ。」
りょうが一つ買って渡すと、ルナは恐る恐る一口かじった。
「……おいしい。」
その笑顔に、一行も自然と笑顔になる。
午後。
冒険者ギルド。
「勇者様!」
受付嬢が駆け寄ってくる。
「緊急クエストです!」
依頼書には大きく書かれていた。
『山岳地帯に現れた飛竜の討伐』
ガイウスが依頼書を見る。
「ちょうどよい鍛錬になる。」
りょうは拳を握る。
「よし!」
「受けよう!」
夕暮れ。
飛竜は巨大だった。
翼を広げれば十メートルを超える。
「グオォォォッ!」
「来る!」
りょうは黒耀を抜く。
黒マントを翻し、高らかに名乗る。
「聞けぇぇぇ!!」
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「空の王だろうが!」
「負ける気はしない!」
飛竜が急降下する。
「黒影・飛燕斬!!」
黒耀が閃き、飛竜の爪を弾く。
紗耶は風魔法で飛竜の体勢を崩し、アリシアは支援魔法でりょうの身体能力を高める。
息の合った連携で、飛竜はやがて倒れた。
帰り道。
ガイウスが静かに言う。
「以前なら苦戦していた相手じゃ。」
「確かに強くなった。」
りょうは少し照れくさそうに笑う。
「まだまだだよ。」
「俺には超えなきゃいけない壁がある。」
その脳裏に浮かぶのは、鋼鉄将軍アイゼン。
「あいつには、まだ勝てない。」
その頃、魔王城。
アイゼンは鍛錬場で黙々と剣を振っていた。
一振り。
また一振り。
汗が地面に落ちる。
そこへノクスが現れる。
「アイゼン。」
「勇者も強くなっています。」
アイゼンは剣を止めずに答えた。
「だからこそ。」
「次は全力で叩き潰す。」
ノクスは仮面の奥で静かに目を閉じる。
(その戦いで……。)
(勇者の運命が動く。)
誰にも聞こえない声で、そうつぶやいた。
決戦の日は、少しずつ近づいていた。




