第77話 覚悟の一撃
紫色の衝撃波で森がえぐられる。
りょうは地面を転がりながらも黒耀を離さなかった。
「ぐっ……!」
アリシアは結界を維持した反動で膝をつく。
「はぁ……はぁ……。」
ノクスも肩で息をしていた。
「さすがに……厳しいですね。」
ゼルグは杖を肩に担ぐ。
「惜しかった。」
「実に惜しかったぞ。」
「あと一歩で勝てた。」
「じゃが。」
「戦いは最後の一歩が一番遠い。」
りょうはゆっくり立ち上がる。
額から血が流れる。
それでも笑った。
「まだ終わってない。」
黒マントを翻し、森に響くほどの声で叫ぶ。
「聞けぇぇぇ!!」
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「諦めるなんて言葉!」
「俺の辞書にはない!!」
ゼルグは思わず吹き出した。
「その名乗り、嫌いではないわい!」
紗耶はりょうの隣へ歩く。
「ねぇ。」
「一回だけ。」
「賭けてもいい?」
りょうは迷わずうなずく。
「もちろん。」
二人は幼い頃からの幼なじみ。
それだけで十分だった。
紗耶は静かに息を吸う。
――《クローズドクロック》発動。
世界が止まる。
しかし今回は違った。
時間停止の負荷で、紗耶の頬を一筋の血が伝う。
「紗耶……!」
動けないはずのりょうには聞こえない。
「もう少しだけ。」
彼女はゼルグの周囲を歩く。
魔力の流れ。
術式。
結界。
そして――。
「……見つけた。」
ゼルグの背後。
彼自身も気付いていない、魔力が一瞬だけ途切れる場所。
時間停止を解除する。
紗耶はふらつきながら叫ぶ。
「りょう!」
「三歩目!」
「左へ踏み込んで!」
「背中!」
りょうは何も考えず走る。
「了解!!」
ゼルグは笑う。
「来ると思ったぞ!」
杖を振り向ける。
しかし。
りょうは一歩。
二歩。
そして三歩目で左へ滑るように踏み込んだ。
「なっ!?」
ゼルグの目が見開く。
完全に死角へ入られた。
「今だ!」
ノクスが幻影を放つ。
「幻影分身!」
十人のりょうが同時に飛び込む。
ゼルグには本物が分からない。
アリシアが最後の支援を重ねる。
「勇者に祝福を!」
「セイクリッド・ブレイブ!!」
黄金の光が黒耀を包む。
りょうは叫ぶ。
「終わりだぁぁぁ!!」
「黒耀・双影天断・極!!」
漆黒と黄金、二つの光が交差する。
ズバァァァァァン!!
斬撃はゼルグの結界を完全に両断した。
杖の紫色の宝石も砕け散る。
パリン……。
ゼルグは数歩後ろへ下がる。
ローブが裂け、肩から血が流れる。
静かな沈黙。
やがてゼルグは大きく笑った。
「ハハハハハ!!」
「負けじゃ!」
「見事!」
杖を地面へ突き立てる。
「今のおぬしたちなら。」
「四天王第四席は務まるかもしれんの。」
りょうは黒耀を納める。
「……勝った。」
ゼルグはノクスへ視線を向ける。
「おぬしの読み勝ちじゃ。」
ノクスは小さく微笑んだ。
「ありがとうございます。」
ゼルグはりょうへ歩み寄る。
「勇者。」
「一つだけ教えてやろう。」
その表情から笑みが消える。
「魔王様は。」
「おぬしたちを本気で倒そうとはしておらん。」
「……え?」
「それどころか。」
「強くなれと願っておる。」
りょうたちは言葉を失う。
ゼルグは空を見上げる。
「その理由は……。」
「魔王様自身から聞くがよい。」
そう言い残すと、転移魔法陣が足元に広がる。
「さらばじゃ。」
紫色の光とともに、ゼルグは姿を消した。
森に残ったのは、静かな風と、新たな謎だけだった。




