第73話 千年前の真実
神殿の最奥。
白い水晶が静かに輝いている。
外では激しい戦いが続いている。
それでも、水晶の中の女性は穏やかな声で語り始めた。
「時間は多くありません。」
「よく聞いてください。」
空中に光が集まり、一つの映像が映し出される。
千年前の王都。
人間と魔族が市場で笑い合い、子どもたちが一緒に遊んでいる。
りょうは目を疑った。
「本当に……一緒に暮らしてる。」
ガイウスも黙って見つめていた。
映像は変わる。
そこには一人の青年がいた。
黒い鎧。
黒いマント。
しかし、その表情は優しい。
隣では、当時の勇者と思われる青年が笑っている。
二人は肩を並べて剣を交え、笑い合っていた。
アリシアが驚く。
「勇者と……魔王?」
女性は静かにうなずく。
「そうです。」
「彼らは親友でした。」
りょうは言葉を失う。
「そんな……。」
女性は続ける。
「勇者と魔王は共に戦いました。」
「世界を滅ぼそうとした"災厄"と。」
ルナが小さく震える。
「災厄……。」
映像には、空を覆う巨大な黒い裂け目が映る。
そこから無数の異形の怪物が現れ、大地を飲み込んでいく。
人も魔族も関係なく襲われる。
ガイウスが目を細める。
「これが……本当の敵。」
女性はうなずいた。
「勇者。」
「魔王。」
「星の巫女。」
三人は力を合わせ、その災厄を封印した。
「ですが。」
女性の声が少し悲しげになる。
「封印の代償として。」
「人間と魔族は互いを疑い始めました。」
長い年月を経て、真実は失われた。
勇者は魔王を倒す者。
魔王は世界を滅ぼす者。
そんな歴史だけが残った。
りょうは拳を握る。
「じゃあ。」
「今の魔王は……。」
女性は首を横に振る。
「分かりません。」
「千年の時が流れています。」
「ですが。」
「もし彼が使命を受け継いでいるなら。」
「彼もまた、災厄に備えているはずです。」
その時。
神殿全体が大きく揺れた。
ドゴォォォォン!!
天井に亀裂が走る。
紗耶が顔を上げる。
「結界が……。」
女性も表情を変えた。
「急いでください。」
「最後の記録を渡します。」
水晶から一つの光が飛び出し、ルナの胸へ吸い込まれた。
ルナは目を閉じる。
そして再び開くと、その瞳は以前より強い青い輝きを宿していた。
「思い出した……。」
「全部じゃないけど。」
「この神殿の場所も。」
「もう一つの封印も。」
その瞬間。
神殿の入口から一人の男がゆっくり歩いてきた。
「……さすがですね。」
ノクスだった。
ローブは焼け、仮面は半分砕けている。
肩からは血が流れていた。
りょうは駆け寄る。
「ノクス!」
ノクスは苦笑する。
「少し……時間を稼ぎすぎました。」
その直後。
神殿の外から、ゼルグの笑い声が響く。
「逃がさんぞ!」
紫色の魔力が神殿へ迫る。
ノクスは最後の力を振り絞り、入口に巨大な結界を張った。
「勇者。」
「ここは私に任せてください。」
りょうは首を振る。
「いや!」
「今度は俺たちが一緒に戦う!」
ノクスは初めて、仮面の奥で心から笑った。
「……その言葉を待っていました。」




