第68話 別れの剣
鋼鉄要塞グランヴァルト。
崩壊は止まり、静寂が戻っていた。
助け出された魔王軍の兵士たちは、自分たちを救った勇者一行を複雑な表情で見つめていた。
「勇者が……俺たちを?」
「敵なのに……。」
アイゼンはゆっくり立ち上がる。
傷だらけだった。
それでも、その背筋は真っすぐだった。
りょうが近づく。
「もう戦えるのか?」
アイゼンは小さく笑う。
「今は無理だ。」
「お前も同じだろう。」
りょうも苦笑した。
「まあね。」
二人は思わず笑い合う。
アリシアが助けた少女を診察する。
「命に別状はありません。」
「長い眠りについていただけみたいです。」
少女はゆっくり目を開ける。
「ここは……。」
「私は……。」
記憶はほとんど失われていた。
紗耶が優しく手を握る。
「大丈夫。」
「もう怖くないよ。」
少女は小さくうなずいた。
ガイウスはアイゼンの前へ歩く。
「久しぶりじゃな。」
アイゼンは敬礼した。
「剣聖ガイウス。」
「昔は、あなたに一太刀も浴びせられませんでした。」
りょうは驚く。
「知り合いだったの?」
ガイウスは静かに笑う。
「昔、少しだけ剣を教えたことがある。」
「えっ!?」
アイゼンも頷いた。
「私は、あなたに憧れて剣を始めた。」
「ですが。」
「今は魔王軍四天王。」
「次に会う時は、敵として剣を交えます。」
ガイウスは満足そうに笑った。
「それでいい。」
そこへ、一羽の黒い鴉が舞い降りる。
アイゼンの肩に止まる。
「……魔王様からか。」
短い伝令を聞き終えると、彼は静かに目を閉じた。
「勇者。」
「魔王様がお待ちだ。」
「次に会う時。」
「私は全力でお前を倒す。」
りょうも黒耀を握る。
「俺も。」
「今度は勝つ。」
二人は固くうなずき合った。
アイゼンは去り際に、眠っていた少女へ目を向ける。
「その子を頼む。」
「本来なら、あの兵器と共に消えるはずだった命だ。」
りょうは真剣な表情で答える。
「ああ。」
「絶対に守る。」
アイゼンはそれ以上何も言わず、部下たちを連れて去っていった。
要塞を後にした一行は、アルカディアへの帰路につく。
その途中、少女が小さな声で尋ねた。
「……私、名前が思い出せない。」
紗耶とアリシアは顔を見合わせる。
りょうは少し考え、笑顔で言った。
「思い出すまで、みんなで呼べる名前を付けようか。」
少女は不安そうにうなずく。
「うん……。」
夕焼けに染まる街道を、五人はゆっくりと歩いていく。
新たな仲間となるのか、それとも別の運命が待っているのか。
その答えは、まだ誰も知らなかった。




