第67話 兵器の中の少女
止まった時間。
静寂の世界で、紗耶は古代兵器の胸部へ歩み寄る。
装甲の裂け目から、淡い青い光が漏れている。
覗き込んだ紗耶は息をのんだ。
「……人。」
透明な水晶の中で、一人の少女が眠っていた。
十歳ほどの、小さな少女。
まるで眠っているだけのような穏やかな表情だった。
《クローズドクロック》解除。
世界が再び動き出す。
「りょう!」
紗耶が叫ぶ。
「あの兵器、壊しちゃ駄目!」
「え?」
「中に女の子がいる!」
りょうの表情が変わる。
「なんだって!?」
古代兵器は感情のない声で告げる。
「殲滅……継続。」
巨大な魔力砲が完成しようとしていた。
アイゼンは全身でその砲口の前に立つ。
「勇者!」
「早くしろ!」
ガイウスが叫ぶ。
「りょう!」
「お前の剣は、人を守る剣じゃ!」
「壊すのではない!」
その言葉で、りょうは黒耀を見つめる。
「……そうか。」
「そうだった。」
黒耀が静かに輝く。
まるで応えるように。
りょうは笑った。
「相棒。」
「斬るんじゃない。」
「助けるぞ。」
黒マントを翻す。
「聞けぇぇぇ!!」
戦場にいつもの声が響く。
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「眠ってる子!」
「今、助けに行く!!」
勢いよく駆け出す。
古代兵器の拳が迫る。
しかし。
《クローズドクロック》発動。
時間が止まる。
紗耶はりょうの隣へ歩く。
「右から行けば装甲の隙間がある。」
「ありがとう。」
時間が動き出す。
りょうは迷わず飛び込んだ。
「黒耀・双影斬!!」
ズバァァァッ!!
二重の斬撃が装甲だけを正確に切り裂く。
制御核には届かない。
ガラスのような結晶だけが露出した。
「あと少し!」
アリシアが杖を掲げる。
「浄化の光よ!」
「セイクリッド・リリース!」
温かな光が結晶を包む。
パリン……
結晶が優しく砕け散った。
眠っていた少女の身体がゆっくりと落ちてくる。
りょうは空中で受け止めた。
「大丈夫か!」
少女はゆっくり目を開ける。
青い瞳がりょうを見つめる。
「……お兄ちゃん?」
その瞬間。
古代兵器の目から紫色の光が消えた。
「制御……停止。」
巨大な身体が静かに膝をつく。
そして、長い眠りにつくように動かなくなった。
アイゼンは大きく息を吐いた。
「終わったか……。」
鋼化が解け、その場に片膝をつく。
りょうは少女を抱えたまま笑う。
「助かった!」
ガイウスも静かに笑う。
「見事じゃ。」
「敵を倒すだけが、勇者ではない。」
その頃、遠くの山頂ではゼルグが苦笑していた。
「ほう。」
「兵器を壊さず、核だけ救い出したか。」
ノクスは静かにうなずく。
「だから私は言ったでしょう。」
「彼は、面白い勇者です。」
ゼルグは杖を肩に担ぎ、空を見上げる。
「次は、わしが本気で試してやろう。」
その言葉を最後に、二人は闇へと姿を消した。




