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異世界と厨二病  作者: シュレディンガー


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第61話 欺きの切り札

鋼鉄要塞グランヴァルト。


巨大な鉄の門の前。


四天王第二席・鋼鉄将軍アイゼンが、無言で大剣を肩に担いで立っていた。


「来たか、勇者。」


りょうは黒耀を抜く。


「聞けぇぇぇ!!」


「我が名は!」


「漆黒の覇王・神崎りょう!!」


「鋼鉄将軍アイゼン!」


「今日こそ、お前を倒す!」


アイゼンはわずかに笑う。


「面白い。」


激しい戦いが始まる。


りょうの剣は確実に速くなっている。


だが、アイゼンはそれ以上だった。


ガキィィン!!


「重い……!」


黒耀ごと押し返される。


ガイウスも表情を変える。


「まだ届かんか……。」


「紗耶!」


「今だ!」


紗耶は右手を上げる。


アイゼンの口元がわずかに緩んだ。


(来る。)


(時間停止。)


彼は四天王全員に共有されていた情報を思い出す。


『少女は指を鳴らして能力を発動する。指が鳴る前に潰せ。』


アイゼンは剣を構え、紗耶の指先だけを見つめる。


「指を鳴らす前に斬る。」


しかし。


紗耶は指を鳴らさなかった。


ただ、小さくつぶやく。


「……今。」


世界が静止した。


音が消える。


風が止まる。


雪も止まる。


アイゼンの表情だけが驚愕に変わる。


(な……!?)


もちろん彼自身は動けない。


だが、その顔には確かに「読まれた」という驚きが刻まれていた。


止まった時間の中。


りょうだけが紗耶に見える。


「成功したね。」


紗耶は少し笑う。


「うん。」


「ずっと騙してた。」


「毎回『クローズド・クロック』って言って、指を鳴らしていたのは……。」


「敵に発動条件だと思わせるため。」


りょうは思わず笑った。


「中学の頃の俺みたいな厨二戦略じゃん!」


「りょうの影響。」


「え?」


「ふふっ。」


時間が動き出す。


アイゼンの剣は空を切る。


「なっ……!」


紗耶はすでに別の場所へ移動していた。


りょうは最高の位置から踏み込む。


「黒耀一閃!!」


ズガァァァン!!


黒耀がアイゼンの鎧を初めて大きく切り裂く。


アイゼンは後方へ飛び退く。


鎧から血が一筋流れた。


彼は傷口を見つめる。


「……なるほど。」


「最初から騙していたか。」


紗耶は静かに答える。


「うん。」


「指パッチンは癖になってただけ。」


「いつでも発動できる。」


アイゼンは初めて大きく笑った。


「いい。」


「実にいい。」


「勇者一行らしい策だ。」


その笑みには、敵ながら賞賛が混じっていた。


しかし同時に、彼は大剣をゆっくり構え直す。


「ならば、もうその手は通じない。」


「次は、時間が止まることを前提に戦おう。」


りょうは黒耀を構え、紗耶と視線を交わす。


「ここからが、本当の勝負だ。」

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