第60話 幻影卿ノクス、再び
港町ミレーヌでの戦いから一週間。
アルカディアへ戻ったりょうたちは、再び修行の日々を送っていた。
しかし、りょうの表情は晴れなかった。
訓練場。
ガイウスの木刀が飛ぶ。
ゴン!
「痛っ!」
「考え事をしておるな。」
りょうは木刀を拾いながら苦笑した。
「デュラスに勝てなかったのが悔しくて。」
ガイウスは頷く。
「悔しさを忘れるな。」
「じゃが、焦るな。」
「強さは一日では手に入らん。」
その日の夜。
りょうは学院の屋上で一人、黒耀を見つめていた。
「俺、本当に勇者なのかな……。」
そこへ紗耶が温かい飲み物を二つ持ってやって来る。
「はい。」
「ありがとう。」
二人は夜空を眺める。
紗耶が静かに言った。
「りょう。」
「覚えてる?」
「中学生の頃。」
「『世界を救う主人公になる!』って毎日言ってた。」
りょうは顔を真っ赤にする。
「忘れてくれ!」
「無理。」
紗耶は笑った。
「でも。」
「今、本当にその夢を叶えようとしてる。」
りょうは少し照れながら笑う。
「……そうだな。」
その瞬間。
風が止んだ。
「!」
紗耶が立ち上がる。
「誰かいる。」
屋上の入口に、一人の男が立っていた。
白い仮面。
黒いローブ。
「こんばんは。」
第三席・幻影卿ノクス。
「ノクス!」
りょうは黒耀を抜く。
ノクスはゆっくり拍手する。
「港町。」
「見事でした。」
「特に。」
「町を守るために波の流れを変えた判断。」
「素晴らしかった。」
りょうは眉をひそめる。
「敵に褒められても嬉しくない。」
「でしょうね。」
ノクスは静かに笑う。
「今日は戦いに来たんじゃない。」
「では何しに来た!」
「警告です。」
その一言で空気が変わる。
「第二席・鋼鉄将軍アイゼン。」
「彼が動きます。」
紗耶が息をのむ。
「第二席……。」
ノクスは続ける。
「彼は私のように甘くありません。」
「正面から叩き潰します。」
りょうは剣を構えたまま聞く。
「なんでそんなことを教える?」
ノクスは少しだけ空を見上げる。
「あなたには。」
「魔王を倒す可能性がある。」
「だから。」
「簡単に死なれては困る。」
りょうは苦笑する。
「やっぱり変な四天王だな。」
「よく言われます。」
仮面の奥で、ノクスは小さく笑った。
その時。
ガイウスが屋上へ現れる。
「ノクス。」
「剣聖。」
二人の視線が交わる。
「お前なら分かるじゃろう。」
「勇者は、まだ未完成じゃ。」
ノクスは静かに頷く。
「ええ。」
「ですが。」
「未完成だからこそ、美しい。」
そう言い残し、足元に魔法陣が浮かぶ。
「また会いましょう。」
光に包まれ、ノクスは姿を消した。
翌朝。
学院長は全員を呼び集めた。
「王都から正式な依頼じゃ。」
地図を広げる。
指差した先は、大陸中央。
巨大な山脈。
「鋼鉄要塞グランヴァルト。」
ガイウスの表情が険しくなる。
「アイゼンの本拠地か。」
学院長は静かにうなずいた。
「そこで、多くの騎士や冒険者が足止めされておる。」
「勇者よ。」
「第二席との戦いが近い。」
りょうは黒耀の柄を握り、深く息を吸った。
そしていつものように、ニヤリと笑う。
「聞けぇぇぇ!!」
紗耶が呆れながら笑う。
「まだ出発前だよ?」
「気合いは早い方がいい!」
アリシアもくすりと笑い、ガイウスは「元気だけは満点じゃ」と肩をすくめた。
こうして一行は、四天王第二席・鋼鉄将軍アイゼンが待つ鋼鉄要塞グランヴァルトへ向けて旅立つのだった。




