第5話 積み重ね
老人――ガイウスは、それから数日間だけ二人に同行することになった。
「能力が弱くても、生き残る術はある。」
それが老人の口癖だった。
朝。
「構え!」
りょうは木剣を握る。
ガイウスの木剣が振り下ろされる。
「遅い!」
コツン。
「あいたっ!」
頭を叩かれる。
「もう一度!」
「はい!」
何度も。
何十回も。
倒されても立ち上がる。
その横では紗耶も剣を学んでいた。
時間停止に頼り切りにならないためだ。
「紗耶もだ。」
「能力は最後の切り札にしろ。」
「はい。」
数週間後。
森で魔物に遭遇する。
牙猪。
以前なら逃げるしかなかった相手だ。
「りょう!」
「任せろ!」
りょうは飛び込む。
以前のような無茶な突撃ではない。
横へ回り込み、木剣で脚を叩く。
魔物が体勢を崩した。
「今だ!」
紗耶が剣で仕留める。
時間停止は使っていない。
「やった……!」
りょうは息を切らしながら笑った。
「俺でも、役に立てた。」
紗耶も嬉しそうに笑う。
「うん。一人で足止めできた。」
その夜。
焚き火を囲む三人。
りょうは火を見つめながら呟く。
「能力がなくても戦えるようになってきた。」
ガイウスは首を横に振る。
「違う。」
「え?」
「能力がなくても、ではない。」
「能力がなくても戦おうとしている。」
「その違いは大きい。」
りょうは黙って聞く。
「強い力を持つ者は、力を失えば何もできなくなる。」
「だが、お前は最初から力が足りん。」
「だから考える。」
「工夫する。」
「諦めない。」
老人は静かに笑った。
「その姿勢が、お前を強くする。」
一方、紗耶は少し複雑な気持ちだった。
(りょうは強くなってる。)
それは嬉しい。
でも最近、りょうは傷だらけになることが増えた。
「無理しすぎ。」
傷の手当てをしながら言う。
「もう少し私を頼ってもいいんだよ。」
りょうは笑った。
「頼ってばかりじゃ、追いつけないから。」
紗耶は何も言えなかった。
本当は、追いついてほしいと思っている。
けれど、それ以上に――。
(無茶だけは、しないで。)
そう願いながら、包帯を結び終えた。
旅はまだ始まったばかり。
りょうの能力は相変わらず「火花」のまま。




