第44話 剣聖の稽古
ベルフォートの戦いから二日。
りょうは宿の庭で、一人黙々と剣を振っていた。
ブンッ。
ブンッ。
ブンッ。
いつもなら技名を叫びながら振る剣も、今日は静かだった。
紗耶は少し心配そうに見つめる。
「りょう……。」
ガイウスがゆっくり歩いてくる。
「落ち込んでおるか。」
りょうは苦笑した。
「当然ですよ。」
「俺……。」
「アイゼンに一回も勝てなかった。」
「《共鳴》も通じなかった。」
「俺、弱いです。」
ガイウスは首を横に振る。
「違う。」
「お前は勘違いしとる。」
ガイウスは木の枝を一本拾う。
「来い。」
「え?」
「打ち込んでこい。」
りょうは戸惑いながら剣を構える。
「いきます!」
「黒影連斬!!」
ガイウスは木の枝一本で、すべてを受け流した。
「なっ!?」
「速さは悪くない。」
「だが、力みすぎじゃ。」
「もう一度!」
りょうは何度も打ち込む。
しかし当たらない。
「もう一度。」
「まだじゃ。」
「もう一度。」
百回。
二百回。
三百回。
汗だくになっても続けた。
夕方。
りょうは地面に倒れ込む。
「もう……無理。」
ガイウスは隣に座った。
「りょう。」
「お前は《共鳴》に頼り始めておる。」
「……。」
「だからアイゼンには勝てん。」
りょうは黙る。
図星だった。
ガイウスは静かに続ける。
「《共鳴》は最後の一押しじゃ。」
「剣そのものが弱ければ、意味はない。」
「まずは剣。」
「能力はその後じゃ。」
その夜。
りょうは一人で素振りを続けた。
紗耶が水を持ってくる。
「はい。」
「ありがとう。」
少し沈黙が流れる。
紗耶が笑った。
「でもさ。」
「今日のりょう。」
「ちょっとかっこよかったよ。」
「え?」
「負けたのに?」
「うん。」
「負けても逃げなかった。」
「だから私は、りょうを信じられる。」
りょうは照れくさそうに頭をかく。
「……ありがと。」
翌朝。
ガイウスは一本の木刀を渡した。
「今日から剣術を叩き込む。」
「魔法は禁止。」
「《共鳴》も禁止。」
「技名は……。」
りょうが期待した顔で見る。
ガイウスはため息をつく。
「……好きに叫べ。」
りょうの目が輝いた。
「よっしゃあ!」
紗耶とアリシアが笑う。
「そこは許すんだ。」
りょうは木刀を構え、大きく息を吸う。
「聞けぇぇぇ!!」
宿にいた冒険者たちが一斉に振り向く。
「始まったぞ。」
「漆黒の覇王の朝練だ!」
りょうは木刀を掲げる。
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「本日より!」
「剣聖ガイウス流、地獄の修行を開始する!」
ガイウスは苦笑しながら木刀を構えた。
「では、第一課題。」
「儂に一太刀浴びせるまで、朝飯抜きじゃ。」
「えぇぇぇ!?」
こうして、りょうの新たな修行が始まった。
魔法でも《共鳴》でもない。
純粋な剣士として、アイゼンに届くための長い鍛錬が始まるのだった。




