第43話 魔王軍四天王・第二席
ベルフォート城外。
風が吹き抜ける。
りょうとアイゼンは互いに剣を構えた。
一切の殺気を隠さない。
それでいて、不思議な静けさがあった。
りょうは深く息を吸う。
黒マントを翻す。
「聞けぇぇぇ!!」
城壁の兵士たちが笑う。
「また始まった。」
「でも、あれを聞くと勇気が出るな。」
りょうは剣を天へ掲げた。
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「魔王軍四天王!」
「その剣、この俺が打ち砕く!」
アイゼンは静かに頷く。
「神崎りょう。」
「名は覚えた。」
大剣を構える。
「剣で語れ。」
ドンッ!!
一瞬で距離を詰めてきた。
「速っ!」
ガキィィィン!!
りょうの剣が大きく弾かれる。
「ぐっ!」
力だけではない。
無駄が一切ない。
「もう一度!」
りょうは踏み込む。
「黒影連斬!!」
しかし。
カン。
カン。
カン。
すべて受け流される。
アイゼンは一歩も下がらない。
「終わりか。」
「まだだ!」
りょうは《共鳴解放》を発動する。
黒い雷が剣を包む。
「黒影・雷牙斬!!」
ズバァァァッ!!
アイゼンは初めて大剣を両手で構えた。
「……悪くない。」
ドゴォォン!!
一撃。
それだけだった。
りょうは吹き飛び、地面を何度も転がる。
「がっ……!」
剣が手から離れる。
立ち上がれない。
紗耶が叫ぶ。
「りょう!」
時間を止めようと指を鳴らす。
しかし。
アイゼンの大剣が紗耶へ向く。
「動くな。」
その圧倒的な威圧感に、一瞬だけ動きが止まる。
アリシアはすぐに回復魔法をかける。
「ホーリー・ヒール!」
それでも、りょうは立てない。
アイゼンは静かに歩いてくる。
「終わりだ。」
大剣を振り上げる。
その瞬間。
ギィィィン!!
一本の剣が、その一撃を受け止めた。
「……!」
アイゼンの目が初めて大きく開く。
「その剣は。」
そこに立っていたのは、ガイウスだった。
腰は少し曲がり、白髪の老人。
だが、その目だけは若き日のまま鋭い。
「弟子に手を出すなら。」
「まずは儂を倒してからじゃ。」
アイゼンは静かに笑う。
「……剣聖ガイウス。」
「生きていたか。」
兵士たちがざわつく。
「剣聖!?」
「伝説の英雄だ!」
りょうも驚く。
「ガイウスさん……?」
ガイウスはため息をついた。
「本当は隠居したかったんじゃがな。」
ゆっくり剣を構える。
その瞬間。
空気が変わる。
りょうですら息を呑む。
(違う。)
(今までのガイウスさんじゃない。)
まるで別人だった。
アイゼンが口元を緩める。
「ようやく。」
「戦える。」
ドォン!!
二人が同時に地面を蹴る。
ガキィィィィィン!!!
衝撃だけで地面が砕ける。
速すぎる。
りょうにも見えない。
紗耶にも見えない。
見えるのは火花だけ。
一撃。
二撃。
十撃。
二十撃。
互角。
アイゼンが笑う。
「素晴らしい。」
ガイウスも笑う。
「まだまだ若い者には負けん。」
しかし。
ガイウスの額から汗が流れる。
手がわずかに震えていた。
「……くっ。」
紗耶が気付く。
「ガイウスさん?」
アリシアも青ざめる。
「体が……。」
ガイウスは小さくつぶやく。
「昔なら。」
「一日中戦えた。」
苦笑する。
「じゃが。」
「今は……。」
「全盛期の力は数分しか保たん。」
アイゼンはその言葉を聞き、静かに剣を下ろした。
「なるほど。」
「老いか。」
ガイウスは笑う。
「歳には勝てん。」
しかし、その目はまだ死んでいなかった。
アイゼンは深く一礼する。
「剣聖。」
「今日の勝負は預けよう。」
「全盛期のお前と、一度戦ってみたかった。」
そう言い残し、魔王軍へ撤退の合図を出す。
りょうは悔しさを噛み締めながら、地面に落ちた自分の剣を拾う。
目の前には、自分が越えなければならない壁が二つあった。
最強の剣士・アイゼン。
そして、かつてそのアイゼンすら認めた、伝説の剣聖ガイウスだった。




