第42話 鋼鉄将軍アイゼン
ベルフォートまで、あとわずか。
街道を抜けると、大きな城塞都市が見えてきた。
「着いた!」
りょうが大きく伸びをする。
「思ったより大きな町だね。」
紗耶も感心する。
アリシアは少し安心したように微笑んだ。
「ここで和平会談が開かれます。」
しかし。
町へ入った瞬間、様子がおかしかった。
市場は静まり返り、人影が少ない。
兵士たちは鎧を着たまま緊張した表情で城壁を見つめている。
ガイウスが兵士に尋ねる。
「何があった?」
兵士は青ざめた顔で答えた。
「……来たんです。」
「魔王軍四天王が。」
その瞬間。
ゴォォォン!!
城門の外から、巨大な音が響く。
四人は城壁へ駆け上がる。
そこで見た光景に、りょうは言葉を失った。
数千の魔物の軍勢。
その先頭に立つ、一人の大男。
全身を黒い鋼鉄の鎧で包み、身長は二メートルを超える。
巨大な大剣を肩に担ぎ、微動だにしない。
兵士が震えながらつぶやく。
「四天王……第二席。」
「鋼鉄将軍アイゼン。」
アイゼンはゆっくりと剣を地面へ突き立てた。
ドォォォン!!
大地が揺れる。
低く、よく通る声が響いた。
「勇者。」
「出て来い。」
りょうは前へ出ようとする。
しかし、ガイウスが腕をつかむ。
「待て。」
「この男はバルガスより格上じゃ。」
「今はまだ――」
りょうは静かに首を振る。
「でも。」
「呼ばれてる。」
城門が開く。
りょうは一人、城の外へ歩き出した。
紗耶も並ぶ。
「一人じゃないよ。」
アリシアも杖を握る。
「私も行きます。」
ガイウスは苦笑した。
「まったく。」
「仕方ない弟子たちじゃ。」
四人は並んで歩く。
アイゼンはその姿を見ると、小さく頷いた。
「……なるほど。」
「これがお前たちか。」
りょうは剣を抜く。
黒マントを大きく翻す。
「聞けぇぇぇ!!」
城壁の兵士たちが思わず笑う。
「始まった。」
「もう恒例だな。」
りょうは堂々と叫ぶ。
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「魔王軍四天王!」
「今日こそ、お前を止める!」
アイゼンは無表情のまま答えた。
「名乗りは立派だ。」
「だが。」
「実力が伴うか見せてもらおう。」
大剣を構える。
その姿に、一切の隙はない。
バルガスのような豪快さも。
ノクスのような奇策もない。
ただひたすらに、完成された強さがそこにあった。
その時。
アリシアが小さな声で言う。
「りょうさん。」
「気を付けてください。」
「この人……。」
「魔力がほとんど感じられません。」
ガイウスの表情が変わる。
「そうか!」
「アイゼンは魔法を使わん!」
「純粋な剣技と肉体だけで四天王になった男じゃ!」
りょうは思わず笑う。
「最高じゃん。」
「俺も剣士だ。」
剣を構え直し、口元に笑みを浮かべる。
「だったら。」
「正々堂々。」
「勝負だ!!」
アイゼンも、ほんのわずかに口元を緩めた。
「……その言葉。」
「嫌いではない。」
そして。
二人の剣士は同時に地面を蹴った。




