第3話 最弱と呼ばれる少年
王都を離れ、一か月。
二人は冒険者として少しずつ名を上げていた。
とはいえ、有名なのは紗耶だけだった。
酒場では冒険者たちが噂している。
「黒髪の少女、見たか?」
「魔物が気付いたら倒れてるんだ。」
「剣術か? 魔法か?」
「分からん。何をしたか誰も見てない。」
「"見えない剣姫"なんて呼ばれてるらしい。」
りょうは隅の席でジュースを飲みながら聞いていた。
(本当は時間停止なんだけどな……。)
もちろん、その秘密は口にしない。
「で、一緒にいるあいつは?」
誰かが言った。
「ああ、あの厨二病の坊主?」
「『漆黒の竜が~』とか叫んでる奴。」
酒場に笑いが起きる。
りょうは顔を赤くした。
「聞こえてるぞ!」
「悪い悪い!」
「でもお前、弱いじゃねえか!」
「火花しか出せない能力だろ?」
「焚き火担当!」
また笑いが起きる。
りょうは何も言い返せなかった。
事実だからだ。
宿へ帰る道。
紗耶が隣を歩く。
「気にしなくていいよ。」
「……気にするさ。」
りょうは空を見上げる。
「お前は一人でも戦える。」
「俺は、お前がいないと何もできない。」
紗耶は少し考えてから答えた。
「私はそう思ってない。」
「え?」
「私、一人だったら不安だよ。」
「えぇ?」
「りょうがいるから安心して前に出られる。」
りょうは首をかしげる。
「俺、何もしてないじゃん。」
「してるよ。」
紗耶は笑う。
「変なこと言って緊張をほぐしてくれるし。」
「……。」
「それに、危ないと思ったら必ず私をかばおうとする。」
りょうは照れて目を逸らした。
「当たり前だろ。」
「幼馴染だから。」
紗耶は小さく頷く。
「うん。」
その夜。
宿の裏庭。
りょうは一人で能力の練習をしていた。
「くそっ!」
パチッ。
火花。
「もう一回!」
パチッ。
火花。
何十回やっても変わらない。
指先から飛ぶ小さな火花だけ。
「なんでだよ……。」
膝をついた、その時。
物陰から一人の老人が、その様子をじっと見つめていた。
白い髭を蓄えた、ローブ姿の老人。
「ほう……。」
老人は誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやく。
「あの力を、ただの火花だと思っておる者がまだいるとは。」




