第35話 幻影の迷宮
王都を旅立って一週間。
りょうたちは次の目的地、霧の森へ向かっていた。
そこでは旅人が何人も行方不明になっているという。
「今回の依頼は救助だね。」
紗耶が地図を広げる。
りょうは頷いた。
「困ってる人がいるなら行くしかない!」
黒マントを翻し、拳を握る。
「漆黒の覇王、出陣だ!」
「はいはい。」
紗耶は笑った。
霧の森。
一歩足を踏み入れた瞬間、白い霧が視界を覆う。
「見えない……。」
ガイウスが周囲を警戒する。
「気を付けろ。」
「この霧は普通ではない。」
その時だった。
「りょう!」
紗耶の声が聞こえた。
振り向く。
しかし、そこに紗耶はいない。
「え?」
今度は反対側から声がする。
「こっち!」
走る。
誰もいない。
「なんだこれ……。」
やがて霧の中から、一人の少女が現れた。
「りょう。」
「え?」
それは、中学生の頃の紗耶だった。
制服姿。
懐かしい笑顔。
「一緒に帰ろ?」
りょうは目を見開く。
「……違う。」
少女は首をかしげる。
「違う?」
「紗耶は今、異世界にいる。」
「お前は幻だ。」
少女は霧となって消えた。
「素晴らしい。」
拍手が響く。
パチ、パチ、パチ。
霧の奥から現れたのは、黒いローブに白い仮面。
幻影卿ノクス。
「ようこそ。」
「私の迷宮へ。」
りょうは剣を抜く。
「ノクス!」
ノクスは優雅に一礼した。
「今日は力比べではありません。」
「心の強さを試しましょう。」
指を鳴らす。
霧がさらに濃くなる。
「この迷宮では。」
「一番会いたい人。」
「一番後悔している出来事。」
「一番恐れている未来。」
それらが幻となって現れる。
「乗り越えられなければ。」
「永遠に迷い続けます。」
りょうは笑った。
「上等だ。」
黒マントを翻す。
「幻なんかに負けるか!」
「我が名は!」
「漆黒の覇王・神崎りょう!!」
「心まで折れるつもりはない!」
ノクスは満足そうに頷く。
「いい返事です。」
一方その頃。
紗耶もまた、一人で霧の中を歩いていた。
「りょう?」
返事はない。
すると前方に、一人の少年が立っていた。
制服姿のりょう。
しかし、その表情は暗い。
「紗耶。」
「……。」
「俺、お前の足手まといだよな。」
紗耶は息をのんだ。
その言葉は、りょうが何度も胸の内でこぼしていた本音だった。
少年は続ける。
「時間停止があるお前だけでいい。」
「俺なんかいなくても。」
紗耶は静かに首を横へ振った。
「違う。」
「そんなこと、一度も思ったことない。」
涙を浮かべながら、一歩踏み出す。
「りょうは私の勇気。」
「だから、一緒にいて。」
その瞬間、幻は霧となって消えた。
遠くでノクスが小さく笑う。
「やはり。」
「君たちは、互いが支えなのですね。」
しかし、その笑みはどこか嬉しそうでもあった。
そして迷宮の最深部で、りょうの前に現れた最後の幻。
それは――
**黒いマントをまとい、圧倒的な力を持つ"未来の神崎りょう"**だった。
未来のりょうは剣を向け、静かに言った。
「弱いお前に、《共鳴》を使う資格はない。」




