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異世界と厨二病  作者: シュレディンガー


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第33話 折れない心

炎が渓谷を包む。


王国軍は後退し、負傷者の救護に追われていた。


戦場の中央。


立っているのは、わずか三人。


りょう。


紗耶。


そして、炎獄将軍バルガス。


紗耶は膝をついたまま動けない。


「ごめん……。」


「もう、時間停止は使えない……。」


魔力は完全に尽きていた。


りょうは静かに首を振る。


「謝るな。」


「十分すぎるくらい頑張った。」


そして、紗耶の前に立つ。


「ここからは俺の番だ。」


バルガスは戦斧を肩に担ぎ、じっとりょうを見つめる。


「一人で戦うつもりか?」


「勝てるとは思えん。」


りょうは笑った。


「思ってない。」


「でも。」


黒マントを翻す。


「負けるとも思ってない!」


剣を構え、大きく叫ぶ。


「聞けぇぇぇ!」


「炎獄将軍バルガス!」


「漆黒の覇王・神崎りょう!」


「ここに最後まで立ち続ける!」


兵士たちから声が上がる。


「りょう!」


「頑張れ!」


今では誰も、その名乗りを笑わなかった。


「来い!」


バルガスが突撃する。


ドォン!!


戦斧が振り下ろされる。


ガキィィン!!


りょうは剣で受け止める。


腕が悲鳴を上げる。


「ぐっ……!」


一撃。


二撃。


三撃。


そのたびに押し込まれる。


それでも倒れない。


(負けるな。)


(立て。)


(紗耶を守るって決めた。)


りょうは歯を食いしばる。


その姿を見た紗耶の目に涙が浮かぶ。


「りょう……。」


バルガスは笑う。


「いい目だ。」


「その目は勇者の目だ。」


戦斧を大きく振りかぶる。


「だが!」


「終わりだ!」


その時だった。


「その一撃は――」


凛とした声が戦場に響く。


キィィン!!


一本の銀色の槍が飛び、バルガスの戦斧を弾いた。


「なに!?」


全員が空を見上げる。


王国の旗を掲げた騎士団が丘を駆け下りてくる。


その先頭には、一人の女性騎士。


黄金の鎧をまとい、長い銀髪をなびかせている。


彼女は馬から飛び降り、槍を構えた。


「援軍です!」


ガイウスが目を見開く。


「王国最強の騎士団長……!」


女性はりょうたちの前に立つ。


「ここから先は、一人ではありません。」


りょうは驚きながらも笑った。


「助かった!」


女性騎士も小さく笑う。


「その名乗り、聞こえていましたよ。」


「『漆黒の覇王』さん。」


少し照れたように言う。


「……悪くない名前です。」


りょうは思わずガッツポーズをした。


「初めて褒められた!」


紗耶は苦笑する。


「そこ喜ぶんだ。」


バルガスは周囲を見回す。


援軍。


負傷しながらも立ち上がる王国軍。


そして、決して諦めないりょう。


「……ふむ。」


「今日はこちらが不利になったか。」


戦斧を肩に担ぐ。


「退く。」


兵士たちが歓声を上げる。


「四天王が退いた!」


「勝った!」


しかし、バルガスは去り際にりょうへ視線を向けた。


「神崎りょう。」


「次に会う時こそ。」


「決着をつけよう。」


炎とともに姿を消した。


戦いは終わった。


だが、りょうは悔しそうに拳を握る。


「また……逃がした。」


ガイウスは肩に手を置く。


「違う。」


「今日は王国を救った。」


「それだけで十分じゃ。」


りょうは黙って頷いた。


しかし、その夜。


誰もいない野営地で、一人剣を握り締める。


「次は……。」


「俺の力だけで。」


「必ず勝つ。」


その決意に応えるように。


右手から、これまでで一番大きな黒い火花が夜空へ弾けた。

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