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異世界と厨二病  作者: シュレディンガー


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第28話 幻影卿ノクス

古代遺跡を後にしたりょうたちは、山を下りながら次の町を目指していた。


夕暮れ。


街道は静かだった。


りょうはまだ少し落ち込んでいる。


「くそぉ……。」


「絶対イベントだと思ったのに。」


紗耶が笑う。


「十分イベントだったよ。」


「剣に選ばれなかったイベントだけど。」


「そこは言わなくていい!」


その夜。


街道脇で野営をすることになった。


焚き火を囲み、三人は夕食を食べていた。


「このスープうまい!」


「ガイウスさん、料理もできるんですね。」


「旅が長いからの。」


穏やかな時間だった。


しかし。


パチ……。


焚き火の音が止んだ。


風も止む。


虫の声も消える。


紗耶が顔を上げた。


「……変。」


ガイウスも剣に手をかける。


「来るぞ。」


闇の中から、一人の男がゆっくりと姿を現した。


黒いローブ。


白い仮面。


まるで影そのもののような存在。


「こんばんは。」


穏やかな声だった。


「旅を楽しんでいるようですね。」


りょうは立ち上がる。


「誰だ、お前!」


男は胸に手を当て、優雅に一礼した。


「礼儀として名乗りましょう。」


「魔王軍四天王。」


「第三席。」


「幻影卿ノクス。」


紗耶の表情が引き締まる。


ガイウスは一歩前へ出た。


「四天王……!」


ノクスは二人を見比べる。


「時を止める少女。」


そして、りょうを見る。


「そして。」


「世界に拒まれながらも、世界に期待されている少年。」


りょうは眉をひそめた。


「何の話だ?」


ノクスは笑うだけだった。


「まだ知らないのですね。」


りょうは剣を抜く。


黒マントを翻す。


「相手が四天王なら!」


「礼儀には礼儀で返す!」


ガイウスが小さくため息をつく。


「やはりやるのか。」


りょうは堂々と胸を張る。


「聞け!」


「魔王軍四天王!」


「我が名は!」


「漆黒の覇王・神崎りょう!!」


「貴様の野望!」


「この剣で断ち切ってやる!」


ノクスは拍手した。


パチ、パチ、パチ。


「素晴らしい。」


「その名乗り。」


「嫌いではありません。」


りょうは少し嬉しそうになる。


「え?」


「本当?」


紗耶が小声で言う。


「喜ぶところじゃないよ。」


ノクスは静かに剣を抜いた。


細身の黒い剣。


「では。」


「少しだけ遊びましょう。」


姿が消えた。


「えっ!?」


次の瞬間。


キィン!!


りょうの剣が弾かれる。


「速っ!」


ノクスはすでに背後にいた。


「遅いですね。」


りょうは振り返る。


しかし、そこには誰もいない。


「上です。」


「!」


空から斬撃。


ガキィン!!


なんとか防ぐ。


(見えない……!)


紗耶はすぐに指を鳴らす。


パチン。


「クローズド・クロック。」


世界が止まる。


「これなら!」


ノクスへ斬りかかる。


しかし。


カキン。


「……え?」


止まった世界で。


ノクスの剣が、紗耶の剣を受け止めていた。


紗耶の瞳が大きく開く。


「うそ……。」


ノクスは仮面の奥で微笑む。


「驚きましたか。」


「残念ですが。」


「私は時間は止められません。」


「ですが。」


「止まった時間を"認識する"ことはできます。」


紗耶の背筋に冷たいものが走る。


彼女の絶対的な切り札が、初めて完全には通用しなかった。


時間が動き出す。


りょうには何が起きたのか分からない。


ただ、紗耶が初めて動揺した表情を見て、胸がざわついた。


ノクスは剣を下ろし、静かに言う。


「今日は挨拶です。」


「あなた方は、まだ私を倒すには早い。」


黒い霧が立ち込め、姿が薄れていく。


消える直前、りょうだけを見つめて一言残した。


「神崎りょう。」


「君の"しょぼい能力"を、私は知っています。」


その言葉だけを残し、幻影卿ノクスは闇へ消えた。


静まり返る森の中で、りょうは無意識に右手を握り締める。


その指先で――誰にも見えないほど小さな黒い火花が、一瞬だけ弾けた。

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