第25話 夜の鍛錬
バルガスとの戦いから数日。
砦は修復作業で慌ただしく、人々の笑顔も少しずつ戻っていた。
その夜。
月明かりだけが照らす訓練場で、りょうは一人、剣を振っていた。
「はぁっ!」
「せいっ!」
何百回。
何千回。
汗が地面に落ちる。
「……まだ足りない。」
物陰から紗耶が見ていた。
「また夜まで練習してる。」
ガイウスは腕を組む。
「あの日の負けが悔しいのじゃろう。」
「でも、あいつは諦めん。」
紗耶は少し心配そうに笑った。
「無理しなきゃいいけど。」
りょうは剣を鞘に納め、夜空を見上げる。
「……出てこい。」
誰に言ったのか分からない言葉。
「俺の能力。」
返事はない。
「一回くらい活躍しろよ。」
「異世界に来たんだからさ。」
ため息をつく。
「紗耶は時間停止。」
「俺は火花。」
「差がありすぎるだろ……。」
珍しく弱音だった。
その時。
「そんなことないよ。」
振り返ると、紗耶が立っていた。
「聞いてたの?」
「少しだけ。」
りょうは頭をかく。
「情けないところ見られたな。」
「ううん。」
紗耶は首を振る。
「りょうだって十分頑張ってる。」
「でも。」
「結局助けられてばっかりだ。」
少し沈黙が流れる。
紗耶は真っ直ぐりょうを見る。
「私ね。」
「時間停止が使えるから強いんじゃない。」
「え?」
「りょうが隣にいるから怖くないの。」
りょうは目を丸くした。
「私一人だったら、とっくに心が折れてた。」
「だから。」
「これからも隣にいて。」
その言葉に、りょうは照れくさそうに笑う。
「……もちろん。」
「漆黒の覇王は仲間を見捨てない。」
「ふふっ。」
紗耶は笑った。
「また始まった。」
その翌朝。
ギルドに新たな依頼が届く。
S級緊急依頼
北方の古代遺跡の調査。
調査隊が全員消息不明。
受付嬢が真剣な表情で言う。
「この依頼は危険です。」
「受けるかどうかは自由ですが……。」
りょうは依頼書を手に取る。
黒マントを翻し、胸を張る。
「決まってる。」
「古代遺跡。」
「封印。」
「未知の力。」
「こんなの、漆黒の覇王が行かない理由がない!」
受付嬢は思わず苦笑した。
「理由がすごくりょうさんらしいですね。」
紗耶は肩をすくめる。
「半分は興味本位だけど、半分は本気なの。」
ガイウスは依頼書を見つめながら、小さくつぶやいた。
「古代遺跡か……。」
「もし、あの噂が本当なら。」
「りょう、お前の能力の手掛かりが眠っているかもしれん。」
りょうは驚いて顔を上げる。
「俺の能力の……?」
ガイウスは静かに頷いた。
「行けば分かる。」
「ただし――」
「その遺跡には、四天王ですら近づこうとしない"何か"がいるという伝説が残っておる。」




