第23話 覇王と剣姫
「来い!!」
炎獄将軍バルガスが戦斧を振り上げる。
燃え盛る炎が渦となり、砦の石畳を溶かしていく。
「人間!」
「我を楽しませろ!」
りょうは剣を構え、ニヤリと笑った。
「望むところだ。」
黒マントを翻し、指をバルガスへ向ける。
「覚悟しろ!」
「漆黒流奥義――黒炎・絶影斬!!」
「うおおおお!!」
ズバババッ!!
高速の連撃。
以前なら一撃で弾き返されていた。
だが今回は違う。
ガキン!
ガキン!
バルガスは戦斧で受ける。
「ほう!」
「剣が重くなったな!」
その隙に紗耶が魔法陣を展開する。
「ウィンド・チェイン!」
風の鎖がバルガスの足に絡みつく。
動きが一瞬止まる。
「りょう!」
「今!」
「任せろ!」
りょうは高く跳び上がる。
「天より舞い降りし黒き流星!」
「終焉流星斬!!」
ドォン!!
頭上から渾身の一撃。
バルガスの肩当てが砕け散る。
「ぐっ!」
兵士たちがどよめく。
「鎧が!」
「四天王の鎧が割れた!」
だが。
バルガスは笑っていた。
「ハハハハハ!」
「最高だ!」
炎がさらに激しく燃え上がる。
「これほど熱くなったのは何百年ぶりだ!」
戦斧を天へ掲げる。
「我が奥義を見せてやろう!」
炎が巨大な竜となって空へ昇る。
「獄炎竜牙!!」
炎の竜が二人へ襲いかかった。
「まずい!」
ガイウスが叫ぶ。
「あれは避けろ!」
紗耶はすぐに判断した。
パチン。
「クローズド・クロック。」
世界が止まる。
炎の竜も空中で静止した。
止まった時間の中。
りょうは炎を見上げる。
「これ……止まってても熱いな。」
紗耶は苦笑する。
「気にするところそこ?」
「いや、ちょっと気になって。」
「りょうらしい。」
二人は炎の軌道から離れる。
だが紗耶は立ち止まった。
「……。」
「どうした?」
「あと一回。」
「時間停止を使ったら、魔力がほとんどなくなる。」
りょうの表情が変わる。
「そんな……。」
「だから。」
紗耶は笑う。
「次はお願い。」
「私を守って。」
その言葉が胸に突き刺さる。
(俺が……。)
(紗耶を守る。)
今まで何度も思ったこと。
だが、初めて紗耶本人から託された。
りょうは力強くうなずく。
「任せろ。」
「漆黒の覇王の名にかけて。」
時間が動き出す。
炎の竜は二人のいた場所を飲み込み、大爆発を起こした。
兵士たちは息をのむ。
「やったか!?」
煙が晴れる。
そこには、無傷で立つ二人の姿。
「ば、馬鹿な!」
バルガスは初めて驚きの表情を浮かべた。
「避けただと?」
りょうは剣を肩に担ぐ。
「当然だ。」
「覇王を甘く見るな。」
本当は時間停止のおかげだ。
だが、その秘密は誰にも知られない。
バルガスは戦斧を握り直し、低く笑う。
「いい。」
「実にいい。」
「ならば次の一撃で決める!」
全身の炎が戦斧へ集まり始める。
空が赤く染まる。
ガイウスの顔色が変わった。
「あれは……!」
「逃げろ!」
しかし、りょうは逃げなかった。
紗耶の前へ一歩踏み出す。
剣を構える。
(今度は俺が守る。)
その瞬間――
りょうの胸の奥で、異世界へ来た日から眠り続けていた"しょぼい能力"が、かすかに脈打った。




