第17話 黒猫を探せ!
翌朝。
リーベルを発った一行は、次の町へ向かう前にエルムの冒険者ギルドへ立ち寄った。
「さて!」
りょうは掲示板の前で腕を組む。
「今日も世界を救う依頼を受けるぞ!」
受付嬢が苦笑する。
「今日は平和ですよ。」
りょうは依頼書を見て固まった。
迷子の黒猫を探してください。
「……。」
庭を荒らすスライムを退治してください。
「……。」
井戸の掃除を手伝ってください。
「……。」
りょうは天を仰いだ。
「魔王軍はどうした!」
受付嬢は笑いをこらえている。
「魔王軍と戦う前に、町の人を助けるのが冒険者です。」
ガイウスも頷く。
「その通りじゃ。」
りょうは依頼書を一枚取る。
「よし。」
「黒猫を探そう。」
紗耶は笑った。
「世界救えなくなっちゃったね。」
「まずは猫から世界を救う!」
依頼人はパン屋のおばあさんだった。
「うちのクロが昨日から帰ってこないの。」
「お願いします。」
りょうは胸に手を当てる。
黒マントを翻し、真剣な表情を作る。
「安心してください。」
「漆黒の覇王・神崎りょうが、その眷属を必ず見つけ出します!」
「……眷属?」
おばあさんは首をかしげる。
紗耶は慣れた様子で説明する。
「猫ちゃんのことです。」
「あらそう。」
二人は町中を歩き回る。
子どもたちにも聞き込みをする。
「黒猫見なかった?」
「うーん。」
「昨日、魚屋さんの方で見た!」
「ありがとう!」
りょうは親指を立てる。
「情報提供に感謝する!」
「じゃあ俺は行く!」
走り出そうとして転びそうになる。
「うわっ!」
紗耶が腕をつかむ。
「落ち着いて。」
「ありがとう……。」
魚屋へ着くと、店主が笑った。
「黒猫なら屋根の上に登ってたぞ。」
見上げると、確かに黒猫がいる。
「ニャー。」
「いた!」
りょうは塀を登ろうとする。
「ふっ!」
「この程度の高さ――」
ズルッ。
「あーーー!」
見事に滑り落ちた。
ドサッ。
周囲から笑いが起こる。
紗耶は肩を震わせている。
「りょう……。」
「笑うな!」
結局、紗耶は時間停止を使わず、風魔法で猫を驚かせないよう近づき、器用に抱き上げた。
「はい。」
「ニャー。」
黒猫は大人しく腕の中に収まる。
「さすが。」
りょうは苦笑した。
「また俺の負けか。」
紗耶は首を横に振る。
「違うよ。」
「聞き込みしたのはりょうだし。」
「猫を見つけたのも。」
「私は最後だけ。」
りょうは少しだけ元気を取り戻す。
「そうか。」
パン屋へ戻ると、おばあさんは涙ぐんでいた。
「クロ!」
黒猫も嬉しそうに鳴く。
「本当にありがとう。」
焼きたてのパンをたくさん持たせてくれた。
「報酬とは別のお礼だよ。」
りょうは目を輝かせる。
「いただきます!」
焼きたてのパンを頬張る。
「うまい!」
紗耶も笑顔になる。
「本当においしい。」
町を出るころには夕焼けが広がっていた。
「今日は魔物とは戦わなかったね。」
紗耶が言う。
りょうはパンをかじりながら答える。
「でも、こういう依頼も悪くない。」
「困ってる人を助けるのが冒険者だもんな。」
ガイウスは満足そうに頷いた。
「少しずつじゃが、お前は勇者らしくなってきた。」
その様子を、街道脇の森から一人の仮面の男が静かに見つめていた。
「猫探しか……。」
幻影卿ノクスは小さく笑う。
「魔王を倒そうという者が、こんな小さな依頼まで真剣にこなすとは。」
「……ますます興味深い。」
彼はまだ姿を現さない。
ただ静かに、二人の「強さ」が力だけではないことを見極めようとしていた。




