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異世界と厨二病  作者: シュレディンガー


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第16話 黒き魔導書

霧の街道を抜けた一行は、小さな宿場町エルムに到着した。


「今日はここで休もう!」


りょうは両手を上げて伸びをする。


「そして我は、漆黒の力をさらに極める!」


紗耶が苦笑する。


「その前に宿を取ろうね。」


宿へ荷物を置いたあと、二人は町を歩いていた。


武器屋。


防具屋。


雑貨屋。


そして、一軒の古びた魔導書店。


店の入口には埃をかぶった看板が揺れている。


『古代魔導書専門店』


「おっ!」


りょうの目が輝く。


「絶対入る!」


「厨二病が喜びそうなお店だね。」


「厨二病じゃない!」


「漆黒の覇王だ!」


「はいはい。」


店内には古い本が山積みになっていた。


店主のおじいさんが二人を見る。


「魔導書を探しておるのか。」


紗耶は頷く。


「はい。」


回復魔法の本。


風魔法の応用書。


魔力制御の教本。


紗耶は次々と手に取っていく。


店主は感心した。


「見る目がある。」


一方のりょう。


「これだ!」


真っ黒な表紙。


銀色の文字。


『深淵の禁術』


「かっこいい……!」


紗耶が横から覗き込む。


「値段は?」


りょうが札を見る。


「金貨三十枚……。」


二人の所持金では到底買えない。


「高っ!」


店主は苦笑した。


「それは古代語の辞書じゃ。」


「え?」


「禁術ではない。」


「……。」


紗耶は吹き出した。


「辞書だったんだ。」


「うそだろぉ!」


結局、りょうが買ったのは初心者向けの火属性魔法の本だった。


「これなら金貨一枚。」


「現実的だね。」


「でも表紙が普通だ……。」


「内容が大事。」


「ぐぬぬ。」


宿へ戻ると、さっそく勉強を始める。


紗耶は魔導書を開き、集中して魔法陣を書き写す。


りょうも真似をする。


「よし!」


「我が魔力よ!」


「今ここに顕現せよ!」


指を突き出す。


「ヘル・フレイム!!」


ボッ。


小さな火が灯る。


「おお!」


りょうは目を輝かせる。


「成功した!」


紗耶も笑顔になる。


「ちゃんと火属性魔法を覚えたね。」


「能力じゃなくて魔法だけど。」


「十分すごいよ。」


りょうは嬉しそうだった。


火花しか出せなかった自分が、努力で一つ魔法を覚えた。


ほんの小さな一歩。


それでも確かな前進だった。


夜。


ガイウスは宿の窓から外を見ていた。


「……。」


町の屋根の上。


黒いローブの男が一瞬だけ姿を見せる。


仮面をつけた細身の男。


「見つけた。」


男は静かにつぶやく。


「『見えない剣姫』。」


そして、その隣にいる黒マントの少年を見る。


「……面白い。」


男は音もなく闇へ溶けた。


その正体は、魔王軍四天王第三席――幻影卿ノクス。


彼はまだ襲わない。


獲物を観察するように、二人の旅を静かに見つめ始めていた。

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