第15章 霧の街道の亡霊
朝。
商隊は霧の街道へ入った。
視界は二十メートルほど。
馬車の車輪の音だけが静かに響く。
「不気味だね。」
紗耶が周囲を見渡す。
ガイウスは低い声で言った。
「この街道では、何十年も前から旅人が消えておる。」
「魔物だけが原因ではない。」
りょうは剣に手を添える。
「じゃあ、正体を暴いてやる!」
黒いマントをバサッと翻す。
「闇に潜む者よ!」
「我が漆黒の魔眼からは逃れられん!」
商人たちは顔を見合わせる。
「……魔眼?」
「本人は見えてる気なんじゃないか?」
紗耶は小さく笑った。
「りょう、そのマント引っかかってる。」
「あっ。」
荷馬車の角にマントが挟まっていた。
「くっ……封印の鎖か!」
「違うよ。」
その時だった。
「助けて……。」
霧の奥から少女の声が聞こえた。
「誰かいる!」
りょうは真っ先に走り出す。
「待って!」
紗耶も追う。
霧の中には、小さな女の子が立っていた。
「お兄ちゃん……。」
泣いている。
りょうはしゃがみ込み、優しく笑う。
「大丈夫。」
「俺たちが守る。」
その瞬間。
ガイウスが叫んだ。
「離れろ!」
少女の姿が黒い霧へ変わる。
「ギャアアア!」
魔物だった。
霧狼。
五体。
十体。
二十体。
「囲まれた!」
商人たちが悲鳴を上げる。
りょうは剣を抜き、深呼吸した。
「ふっ……。」
右手を前へ突き出す。
「闇より現れし牙どもよ!」
「貴様らの相手は――」
剣を天へ掲げる。
「漆黒の覇王・神崎りょうだ!」
「我が剣技!」
「黒影連斬!!」
ズバッ!
ズバッ!
ズバッ!
三体を素早く斬り伏せる。
ガイウスが驚く。
(剣筋が良くなっておる。)
りょう自身は気付いていない。
修行の成果が、確実に出始めていた。
しかし。
霧狼は次々と現れる。
「数が多い!」
紗耶が前へ出る。
「私が時間を――」
「待って!」
りょうが止めた。
「今回は使わないで。」
紗耶は驚く。
「え?」
「できるところまで、俺たちだけでやろう。」
時間停止は切り札。
ガイウスに教わったことだった。
紗耶は少し迷い、うなずく。
「……分かった。」
二人は背中合わせになる。
「左お願い!」
「うん!」
紗耶は風魔法で霧を吹き飛ばし、視界を確保する。
りょうは剣を振るう。
「黒炎閃!!」
「影牙突き!!」
「終焉十字斬!!」
技名だけはどんどん増えていく。
商人が叫ぶ。
「技名が多い!」
別の冒険者が苦笑する。
「でも全部普通の剣技だ!」
「名前負けしてる!」
「聞こえてるぞ!」
りょうは顔を真っ赤にしながら、それでも笑っていた。
「名前は強さの半分だ!」
「残り半分は?」
「気合だ!」
紗耶は思わず吹き出した。
「もう……。」
やがて最後の一体を倒す。
霧が少しずつ晴れていく。
商隊は無事だった。
依頼主の商人は深々と頭を下げる。
「ありがとう。」
「君たちがいて助かった。」
りょうは照れくさそうに頭をかく。
「当然です。」
そして黒マントを翻し、人差し指を空へ向ける。
「我が使命は世界を救うこと。」
「困っている人を見捨てるなど、漆黒の覇王の名が廃る!」
商人たちは一瞬静まり返り――
次の瞬間、笑い声が広がった。
その笑いにつられて、紗耶も声を上げて笑う。
りょうは少し不満そうだったが、どこか嬉しそうでもあった。
その様子を見つめるガイウスは、小さくつぶやく。
「その明るさがお前の強さじゃ。」
「どんな絶望の中でも、仲間の心を軽くする。」
「それもまた、勇者の資質よ。」




