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第七話 決断

 「全員……?」


 門下生の誰かが呟く。

 道場の空気が一気に変わった。


 八傑。


 その名前一つでも王国中が沸く存在だ。

 その全員が集まるなど、普通なら国の一大行事レベルである。

 リゼは腕を組みながら頷いた。


 「うん。 “黒鴉”カインも、 “銀刃”セリアも来るって」

 「セリア様も……!」

 「魔導学院の!?」


 門下生たちがざわつく。

 アレンが静かに続ける。


 「"無影"シオン、 “獅王”ガルド、 “灰狼”ヴァルト、 “白聖”エレナも既に王都へ向かっているそうです」

 「うわぁ……」

 「英雄全員集合じゃん……」


 完全に少年たちの目が輝いていた。

 だが俺は違う意味で頭が痛かった。

 あいつら全員集まるのか。

 絶対うるさい。

 特にガルドとリゼが揃うと面倒なんだよな……。

 するとリゼがニヤニヤしながらこちらを見る。


 「師匠、諦めた?」

 「何をだ」

 「王都行き」

 「行かん」


 即答。

 だが門下生たちが「えぇ……」みたいな顔をした。

 なんだその反応。

 年少組の一人がおずおずと口を開く。


 「で、でも師範が行った方が……」

 「面倒だ」

 「理由それだけなんですか!?」


 リゼが爆笑した。


 「あははっ! 師匠ほんっとブレないよね!」


 アレンは真面目な顔のまま言う。


 「しかし、今回は本当に状況が不透明です」

 「魔導刻印の件か」

 「はい。それに加え、各国の動きも不穏です」


 俺は少し目を細める。

 ルヴェリアだけじゃない。

 世界全体が妙にきな臭い。


 アストラ魔導帝国。

 ヴァルグラン共和国。

 聖セイクリア。


 どこも最近動きが活発すぎる。

 まるで――何かに備えているみたいに。

 その時。


 「師範ー!」


 年少組が慌てて駆けてくる。


 「リゼ様がまた変なことしてます!」

 「またか」


 俺が視線を向けると、リゼが道場の柱にぶら下がっていた。


 「見て見て! これ昔やったよね!」

 「降りろ馬鹿」


 ミシミシいってる。築何年だと思ってるんだ。

 リゼはケラケラ笑いながら飛び降りた。


 「いや〜懐かしいなぁ。師匠に“道場壊すな”って毎日怒られてた!」

 「今も怒ってる」


 すると門下生の一人が驚いた顔をする。


 「蒼嵐様でも怒られてたんですね……」

 「そりゃそうだろ」


 むしろ一番怒られてたまである。

 アレンが静かに頷く。


 「リゼは問題児でしたから」

 「えっ、アレン言う!?」

 「事実です」


 リゼがショックを受けた顔をする。


 「ひどくない!?」

 「ちなみに、師範に池へ投げ込まれた回数は最多です」

 「待ってそれ言う必要あった!?」


 門下生たちが吹き出した。


 「蒼嵐様でもそんなことされるんだ……」

 「ちょっと安心した」


 リゼは不満そうに頬を膨らませる。


 「でも師匠も結構ひどかったんだよ!? 修行って言って滝に放り込まれるし!」

 「基礎鍛錬だ」

 「冬だったんだけど!?」

 「気合が足りん」

 「えー!?」


 道場に笑い声が広がる。

 その光景を見ながら、俺は少しだけ思う。


 ……変わってないな。


 弟子たちが強くなって。立場が変わって。

 世界中に名を轟かせても。

 こうして騒いでる時は、昔のままだ。


 その時だった。アレンが静かに口を開く。


 「……師匠」


 今度は本当に真面目な声だった。


 「もし、王都へ来ていただけるなら」


 俺は視線を向ける。

 アレンはまっすぐこちらを見ていた。


 「……弟子として、頼みます」


 空気が静まる。

 門下生たちも黙っていた。

 騎士団長ではない。

 八傑でもない。

 ただ一人の弟子として、頭を下げている。


 昔から、こいつはそういう奴だ。


 真っ直ぐで。

 不器用で。

 だからこそ強い。


 リゼも静かだった。

 いつもの軽い笑顔じゃない。俺は小さく息を吐く。


 ……面倒だ。

 本当に面倒だ。


 だが。


 「……三日だけだぞ」


 一瞬の沈黙。

 そして。


 「「!!」」


 リゼが飛び上がった。


 「やったぁぁぁぁ!!」


 ドゴンッ!!


 勢い余って天井に頭をぶつける。


 「痛ぁっ!?」

 「だから暴れるなって言ってんだろ……」


 アレンは静かに目を閉じ、小さく頭を下げた。


 「ありがとうございます、師匠」


 その表情は、少しだけ安堵して見えた。

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