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第十二話 獅王

 ルヴェリア王都は、昔とは別の街になっていた。

 

 巨大な白壁。

 空へ伸びる無数の塔。

 石畳を埋め尽くす人波。

 さらに頭上では、小型の浮遊輸送機が静かな音を立てながら行き交っている。

 馬車が王都中心部へ進むたび、周囲の視線が集まった。


 「騎士団長様だ……!」

 「銀刃様もいるぞ!」

 「蒼嵐まで!?」


 そして当然のように。


 「……え、待て」

 「あの人……剣聖じゃないか?」


 騒ぎが倍になる。

 俺は深いため息を吐いた。


 「……帰りたい」

 「諦めてください、先生」


 セリアが即答する。

 リゼは窓から外を見ながら楽しそうに笑っていた。


 「いやー、王都のみんな反応いいねぇ!」

 「お前が騒ぐから余計目立つんだろ」

 「えへへ」


 褒められたと思ってる顔だった。

 

 馬車は中央大通りへ入る。

 そこは王都でも特に賑やかな区域らしく、商店や飲食店が並び、大勢の人間で溢れていた。

 すると、前方が急に騒がしくなる。


 「おい、道開けろ!!」

 「獅王様だ!!」


 人混みが割れた。

 歓声が上がる。

 そして、その中心を一人の大男が歩いてくる。


 筋骨隆々の巨体。

 短く刈った金髪。

 背中に担いだ巨大な剣。


 ただ歩いているだけなのに、猛獣みたいな圧があった。

 周囲の人々が熱狂している。


 「今日の試合見たか!?」

 「また一撃だったぞ!」

 「百三十七連勝だってよ!」


 リゼが嬉しそうに身を乗り出した。


 「あ、ガルドだ!」


 八傑、 “獅王”ガルド・バルハイト。

 王都最大闘技場、無敗の絶対王者。

 観客人気だけなら、八傑でもトップクラスだ。

 ガルドは馬車を見るなり、目を見開いた。

 数秒、そして。


 「師匠ぉぉぉぉぉ!!」


 王都中に響きそうな大声。

 うるさい。


 ゴッ。


 俺は木刀で頭を叩いた。


 「いっっっっ!?」


 ガルドが頭を押さえてしゃがみ込む。

 周囲が静まり返った。


 「え……」

 「獅王様が……」

 「止められた……?」


 観客たちが絶句している。

 ガルドは涙目で抗議した。


 「久々の再会だろ師匠!?」

 「王都の真ん中で叫ぶな」

 「いや嬉しくてつい!」


 全く反省していない。

 だが、その顔は本当に嬉しそうだった。


 ガルド・バルハイト。


 昔から声が大きくて、力任せで、真っ直ぐな弟子だった。

 筋力だけなら、門下生の頃から化け物だったな。

 ただ、剣が雑すぎた。

 だから毎日のように基礎を叩き込んだ。


 足運び。

 重心移動。

 呼吸。


 本人は嫌そうだったが、最後まで逃げなかった。

 その結果が、 “獅王”である。

 ガルドは立ち上がり、豪快に笑った。


 「いやぁ! 師匠全然変わってねぇな!」

 「お前はでかくなりすぎだ」


 昔から大きかったが、今は完全に壁だ。

 リゼが横から笑う。


 「ガルドって昔から師匠に殴られてたよね!」

 「うるせぇ! お前だって池投げられてただろ!」

 「それは修行だから!」

 「俺も修行だわ!」


 周囲の観客たちが困惑していた。


 「え……?」

 「獅王様ってあんな感じなのか……?」


 多分、闘技場ではもっと威厳あるんだろう。

 俺の前だと昔に戻るだけで。

 すると、ガルドが急にニヤリと笑った。


 「お、セリアもいるじゃねぇか」

 「どうも」

 「相変わらず硬ぇなぁ」

 「あなたが騒がしいだけです」


 即答。


 ガルドは豪快に笑う。

 その時だった。

 周囲の人間がまたざわつき始める。


 「待て……」

 「今、 “師匠”って言ったか?」

 「あの獅王が?」


 空気が変わる。

 ガルドはそこで、ようやく気づいたような顔をした。


 「ん?」


 リゼが楽しそうに笑う。


 「あーあ」


 アレンは静かに目を閉じる。

 嫌な予感しかしない。

 そして次の瞬間。


 「ええええええええええっ!?」


 大通りが爆発したみたいな騒ぎになった。


 「獅王の師匠!?」

 「剣牙と蒼嵐と銀刃の!?」

 「待て待て待てどういうことだ!?」

 「本当に剣聖なのか!?」


 うるさい。

 頭が痛い。


 ガルドはようやく状況を理解し、笑った。


 「なんだ、まだバレてなかったのか?」

 「お前らが広めてんだろうが」


 するとガルドは腕を組みながら言った。


 「いやでも実際、師匠来てくれて助かったぜ」


 声の調子が少し変わる。

 リゼも笑みを引っ込めた。

 ガルドは周囲を見回し、小さく呟く。


 「……今の王都、空気悪ぃんだよ」

 「空気?」

 「ああ。闘技場にも変なのが増えてる」


 その目が鋭くなる。


 「最近、 “妙に強ぇ連中”が裏で動いてやがる」


 アレンが静かに反応する。


 「正体は?」

 「分からねぇ。だが、普通の戦い方じゃねぇな」


 ガルドは少し考えるように目を細める。


 「……まるで、自分の力じゃない何かを使ってる感じだ」


 セリアの表情がわずかに変わった。

 魔導刻印。

 多分、繋がっている。

 王都の喧騒の裏で、何かが確実に動き始めていた。

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