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第十三話 招待

 王都中央大通りは、完全に騒ぎになっていた。

 八傑が四人。

 その中心に、長年表舞台から姿を消していた“剣聖”。

 目立たない方がおかしい。


 「本当に剣聖なのか……?」

 「いや、でも獅王様が師匠って……」

 「蒼嵐様も銀刃様も普通に話してるぞ」

 「待て、じゃあ噂本当だったのか!?」


 人々のざわめきが、波みたいに広がっていく。

 商人は商売を忘れてこちらを見ているし、冒険者たちは呆然としている。

 子供たちは興奮した様子で走り回り、騎士たちは交通整理に追われていた。

 完全に祭りだった。

 俺は深いため息を吐く。


 「……帰りたい」

 「師匠、その台詞さっきからずっと言ってるね」


 リゼが楽しそうに笑う。

 ガルドも豪快に笑った。


 「はははっ! 相変わらず人混み苦手だな!」

 「苦手じゃない。面倒なだけだ」

 「同じじゃねぇか!」


 うるさい。

 すると、近くにいた子供が恐る恐るこちらへ近づいてきた。

 十歳くらいか。

 木剣を背負っている。

 目を輝かせながら、震える声で言った。


 「あ、あの……!」

 「どうした?」

 「ほんとに……剣聖さまなの?」


 周囲が少し静かになる。

 子供の父親らしき男が慌てて止めようとした。


 「お、おい失礼だろ!」


 だが、俺は軽く手を振る。


 「別にいい」


 そして子供を見る。

 真っ直ぐな目だった。

 昔の門下生たちを思い出すくらいに。

 俺は少し考えてから答えた。


 「……そう呼ばれてた時期はある」


 子供の顔がぱあっと明るくなる。


 「す、すげぇ……!」


 その瞬間。

 周囲の空気が一気に弾けた。


 「やっぱ本人だ!!」

 「うおおおおおっ!?」

 「本物の剣聖だ!!」


 歓声が大通りへ響き渡る。

 リゼが笑い転げていた。


 「師匠、もう隠すの無理だねこれ!」

 「元々お前らのせいだろ」


 セリアは小さくため息を吐く。


 「ここまで有名になるとは思っていませんでした」

 「お前らが暴れ回るからだ」

 「否定はできません」


 即答だった。

 すると、ガルドがニヤニヤしながら肩を組んでくる。

 重い。


 「いやー、でも仕方ねぇだろ! 俺ら全員、“風凪道場出身”って隠してねぇし!」

 「だから広まるんだよ」

 「むしろ誇らしいしな!」


 ガルドは本気でそう思ってる顔だった。

 まあ、こいつは昔からそうか。

 闘技場で勝つたびに、


『俺の師匠の方が強ぇ!』


 とか言ってたらしいし。

 そのせいで、剣聖伝説が妙に盛られた部分もある。

 すると今度は、周囲の冒険者たちがざわつき始める。


 「おい……」

 「あの獅王があんな態度取るって……」

 「マジで別格なんだな……」


 視線が集まる。

 王都の奴らは、皆俺を見ていた。

 

 憧れを見る目。

 英雄を見る目。

 そして――本当に存在したのか、と確かめる目。


 憧れ、畏怖、好奇心。色んな感情が混ざっていた。

 俺は頭を押さえる。


 「……本当に帰りたい」

 「師匠、諦めなって」


 リゼが笑う。

 その時だった。

 遠くから馬の蹄の音が響いた。


 ダッ、ダッ、ダッ――。


 規則正しい音。

 周囲の騎士たちが即座に反応する。


 「道を開けろ!」


 白銀の鎧を纏った騎士部隊が、大通りを真っ直ぐこちらへ向かってきた。

 統率された動き、無駄のない隊列。

 さすが王国騎士団だ。

 先頭の若い騎士が馬を止め、一礼する。


 「アレン団長!」


 だが、その表情には焦りがあった。

 アレンが静かに問い返す。


 「何かありましたか」

 「王城より急報です」


 騎士は一瞬だけ俺を見る。

 緊張しているのが分かった。

 そして、少し声を硬くして言う。


 「 “剣聖ロウ・ヴァレイス到着確認次第、直ちに迎えよ”との命令が出ています」


 周囲がざわつく。


 「王城から直々……?」

 「そこまでなのか……」


 俺は小さく眉をひそめた。


 「……随分早いな」

 「恐らく、正門の騒ぎが即座に伝わったのでしょう」


 セリアが冷静に分析する。

 まあ、あれだけ騒げばな。

 ガルドがニヤリと笑った。


 「王様も気になって仕方ねぇんじゃねぇの?」

 「やめろ。余計面倒になる」

 「でも実際、王都だと師匠もう半分伝説の人だぜ?」

 「半分ではありません」


 セリアが即答した。


 「完全に歴史上の人物扱いです」

 「やめろ。なんか死んだみたいだろ」


 周囲の騎士たちが妙に気まずそうな顔をしていた。

 すると、さっきの若い騎士が恐る恐る口を開く。


 「あ、あの……ロウ様」

 「なんだ」

 「本当に……お一人で砦を落としたって……」

 「誰情報だそれ」

 「王国軍の記録です……」


 ガルドが爆笑した。


 「はははっ! 懐かしいなそれ!」

 「お前余計なこと言うな」

 「いや実際ヤバかったぞ!? 敵兵が“化け物だ!”って逃げ――」


 ゴッ。


 「いっっっ!?」


 木刀が再び頭へ直撃する。

 周囲の騎士たちが震えていた。


 「獅王様が……」

 「また叩かれた……」


 リゼは腹を抱えて笑っている。


 「ガルドだけ毎回全力だよね!」

 「お前も叩かれてただろ!」

 「えへへ」


 嬉しそうにするな。

 だが、その空気が不意に変わった。

 アレンの視線が、すっと人混みへ向く。

 セリアも同時だった。

 空気が張る。

 俺もそちらを見る。


 人混みの奥。黒ローブの男。

 その男だけが、周囲の熱狂を、まるで興味なさそうに見ていた。

 妙な気配だった。

 殺気じゃない。

 もっと冷たい何か。

 観察するような目。


 そして次の瞬間。

 男の姿が、人混みに紛れて消える。

 ガルドが笑みを消した。


 「……今の見たか」

 「ああ」


 アレンが低く呟く。


 「追いますか」


 だが、セリアは静かに首を横へ振った。


 「駄目です。今ここで動けば一般人を巻き込みます」


 正論だった。

 だが、全員感じている。

 あれは普通じゃない。

 王都へ来て、まだ半日も経っていない。

 それなのにもう、 “裏側”が動き始めていた。

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