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第十一話 到着

 宿場町を出発したのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 結局、最後まで町の騒ぎは収まらなかった。


 「剣聖様ー!」

 「また来てくれよー!」


 子供たちが馬車を追いかけながら手を振っている。

 俺は窓から軽く手を上げるだけに留めた。

 すると隣でリゼが笑う。


 「師匠、意外と人気者だねぇ」

 「お前が広めたんだろ」

 「えへへ」


 褒められたと思っている顔だった。

 アレンは向かい側で資料を読んでいる。セリアは静かに窓の外を眺めている。

 馬車の中に八傑が三人、冷静に考えると意味が分からない光景だ。

 その時、セリアが静かに口を開いた。


 「先生。先ほどの話の続きですが」


 空気が少し引き締まる。リゼもふざけるのをやめた。


 「魔導刻印暴走事件。現在確認されているだけで、国内十七件」

 「多いな」

 「ええ。本来、刻印術は極めて安定した技術です。突然暴走すること自体がまずあり得ない」


 セリアは机代わりの小台へ、数枚の資料を広げる。

 そこには複雑な魔導式が描かれていた。

 俺は半分くらいしか分からなかった。


 「問題はここです」


 セリアが一点を指差す。


 「この術式構造。既存のルヴェリア式ではありません」

 「他国の技術か?」


 アレンが問う。

 セリアは静かに首を横へ振った。


 「断定はできません。ですが少なくとも、王国の正規研究ではない」


 つまり。

 誰かが裏で妙なもんを作ってるってことか。

 リゼが腕を組む。


 「でもさー、それと八傑全員集合ってどう繋がるの?」

 「被害規模です」


 セリアの声が少し低くなる。


 「もしこれが大規模に拡散した場合、王国の魔導インフラ……いえ、 “社会そのもの”が崩壊しかねません」


 馬車の中が静まる。

 今のルヴェリアは魔導技術で回っている。

 照明、輸送、通信、兵器。全部、魔導刻印が基盤だ。

 それが暴走したらどうなるか。

 考えたくもない。

 俺は小さく息を吐いた。


 「面倒なことになってんな」

 「だから先生が呼ばれたんです」


 セリアが淡々と言う。


 「純粋な戦力としてもそうですが……何より、“昔”を知っているから」


 昔。


 その言葉に少し引っかかる。

 だが、聞き返す前にリゼが窓の外を指差した。


 「あっ!」

 「今度はなんだ」

 「見えてきた!」


 馬車の窓から遠くを覗く。

 そして巨大な白壁が見えた。山みたいに広い外壁。空へ伸びる無数の塔。

 壁の上を巡回する騎士たち。


 ルヴェリア王都。

 王国最大の都市。


 昔より明らかに大きくなっていた。


 「……でかくなったな」


 率直な感想だった。

 リゼが笑う。


 「でしょ!? 今すごいんだよ王都!」


 近づくにつれて、人の数も増えていく。

 荷馬車、商人、旅人、冒険者。さらに空には、小型の浮遊輸送機まで飛んでいた。


 「本当に飛んでる……」

 「だから言ったじゃん」


 俺は思わず目を細める。

 なんというか。

 文明の進化速度がおかしい。

 するとセリアが小さく笑った。


 「先生、完全に時代に置いていかれた顔してますよ」

 「うるさい」


 やがて馬車は王都正門へ到着する。

 巨大な門。

 その前には長蛇の列ができていた。

 だが。

 騎士団の紋章を見た瞬間、衛兵たちの顔色が変わった。


 「騎士団長閣下!」


 衛兵たちが一斉に敬礼する。

 アレンが静かに頷いた。


 「ご苦労」


 そして、衛兵の一人が馬車の中を見た瞬間。

 固まった。


 「…………え?」


 視線が俺とセリアとリゼを往復する。

 理解が追いついてない顔だった。

 隣の衛兵も覗き込む。

 そして。


 「ぎ、銀刃様!?」

 「蒼嵐様まで!?」


 軽くパニックになった。

 さらに。

 年配の衛兵が、俺を見て目を見開く。


 「……まさか」


 嫌な予感。


 「ロウ・ヴァレイス……?」


 アレンが小さく目を閉じた。

 リゼはニヤニヤしている。

 セリアはため息をついた。


 次の瞬間。


 「剣聖っ!?」


 門前にいた全員がざわついた。

 列が止まる。

 周囲の冒険者たちが振り返る。商人たちまで騒ぎ始めた。


 「え!? 剣聖!?」

 「本物!?」

 「なんで騎士団長と一緒に!?」


 うるさいな。王都着いて五秒でこれか。

 俺は頭を押さえる。


 「……帰っていいか?」

 「「「だめです」」」


 三人同時だった。息ぴったりか。




 その頃、王都最大の闘技場では、一人の男の名が響いていた。


 ――“獅王”、ガルド・バルハイト。


 千戦無敗。

 八傑が一人。

 王国最強の剣闘士。


  そして。


 「師匠が来てるって本当か!?」


 次回、獅王来たる。

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