↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の罪状を書けと命じられましたが、王宮記録官の原本には殿下の命令も妹の嘘もすべて記録されています  作者: ハッピーミラクルエンジョイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/17

消えなかった原本

 マリアベルが盗んだという「最初の原本」。


 それが何を指すのか、私には心当たりがあった。


 五年前、北方救恤制度が始まった日の決裁記録だ。


 王太子は災害対策として制度を創設した。けれど決裁書の原案には、救恤費の一部を王家の特別会計へ移す条項があった。


 私が異議を記録すると、条項は削除された。


 少なくとも、王宮に残る写本では。


「削除前の原本があれば、横領が最初から計画されていたと証明できます」


「妹君はどこへ持ち出した?」


 シリウス様の問いに答える手がかりは、手紙の箱にあった。


 箱の内張りを剥がすと、王都の古い地下水路図が現れた。赤い印は、王宮地下書庫ではなく、閉鎖された礼拝堂を示している。


 私はすぐに王都へ照会を送った。


 返事を待つあいだにも、監査を止めるわけにはいかない。


 押収した偽帳簿を年代順に並べると、奇妙な規則が見えた。


 消えた小麦の量は毎年違う。だが、王都へ送金された金額はいつも同じだった。


 金貨一万二千枚。


「誰かが必要な額を先に決め、そのために小麦の数を調整していた」


「何に使った金だ?」


 支出先は記されていない。


 代わりに、すべての送金日に同じ催事が行われていた。


 王太子主催の慈善舞踏会。


 救恤費を盗み、その一部で慈善を演出する。飢えた村の金で、王都の貴族に善人だと称賛させていたのだ。


 村人たちの怒りが広間を満たした。


 私はそれを一つずつ証言として記録した。


 夕刻、王都から伝書鳩が戻った。


『旧礼拝堂を捜索。記録なし。地下水路は三年前に封鎖済み』


 遅かったのか。


 紙を握りしめたとき、裏面に追記があることに気づいた。


『ただし祭壇の下から、王宮記録官専用の保管筒を発見』


 中身は空だった。


 けれど蓋の内側に、私が新人時代に使っていた整理番号が刻まれている。


 R―一―零〇一。


 王宮記録の第一号。


 制度創設の決裁書で間違いない。


「原本は持ち去られています」


 私が言うと、シリウス様は首を振った。


「いや。記録官の顔をして考えろ。原本を盗んだ者が、空の筒をわざわざ残す理由は?」


 私は息を止めた。


 保管筒は証拠ではない。


 伝言だ。


 消えたのではなく、別の場所へ移したと知らせるための。


 整理番号を紙に書き、数字を王宮記録官の換字表で文字へ置き換える。


 現れたのは地名だった。


 エルン村。


 地図から消され、百二十人が見捨てられた村。


「マリアベルは原本を、被害者のもとへ返したのです」


 その夜、雪の中から一人の女が監査宿舎へ運び込まれた。


 外套は裂け、足には鎖の跡がある。


 それでも彼女は、胸に一本の保管筒を抱えていた。


「お姉様……」


 顔を上げたのは、行方不明だったマリアベルだった。


「これを、殿下に奪われる前に」


 差し出された原本の末尾には、王太子の直筆で一文が加えられていた。


『北方の損失は、記録上存在しないものとする』


 私は妹を抱き起こし、原本を開いた。


「いいえ、殿下」


 消えなかった記録を、今度こそ王国中に読ませる。


 王都での公開審理を求める鐘が、その夜、北方のすべての村で鳴らされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。