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悪役令嬢の罪状を書けと命じられましたが、王宮記録官の原本には殿下の命令も妹の嘘もすべて記録されています  作者: ハッピーミラクルエンジョイ


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10/17

妹の証言は、二通あった

 マリアベルが目を覚ましたのは、夜明け前だった。


 医師は面会を止めたが、妹は枕元の保管筒を離そうとしない。


「お姉様。公開審理までに、伝えなければならないことがあります」


「今は休みなさい」


「休めば、殿下が先に私の証言を出します」


 その言葉で、私は椅子を引き寄せた。


「証言はすでに書かされているのね」


 マリアベルはうなずいた。


 王宮を出る三日前、王太子の執務室へ呼ばれたという。机には、私が北方救恤費を横領したと認める証言書が用意されていた。


「署名しなければ、お姉様を反逆罪で処刑すると言われました」


「それで署名したの?」


「はい。けれど、あの紙には日付がありませんでした」


 日付のない証言書。


 必要な事件が起きたあとで、都合のよい日を記入するためだ。


「殿下は、明日の審理でその証言を使うつもりです」


「なぜ分かるの?」


「私が逃げる直前、書記官が封筒へ入れるのを見ました。封蝋は王太子府の黒。表には『レティシア・ヴァルモンドの罪を証明するもの』と」


 シリウス様が窓辺から振り返った。


「偽の証言を破るだけなら、本人が否定すればいい」


「いいえ。妹が脅されて署名した事実は残ります。しかし、それだけでは殿下が脅した証拠にならない」


 私は保管筒から原本を取り出した。


「だから、二通目が必要です」


 マリアベルはかすかに笑った。


「もう書いてあります」


 彼女が指したのは、原本の最後の頁だった。


 王太子の一文の下に、細かな文字が続いている。


『本原本を持ち出した理由、および王太子府で強要された証言の内容を、以下に記録する』


 末尾にはマリアベルの署名と、三人の村人の証人印。


 さらに、エルン村の礼拝堂で使われていた時刻鐘の記録が添えられていた。


 鐘守の日誌によれば、署名が行われたのは一昨日の正午。王太子府の証言書より後に作られたことを、第三者が証明できる。


「原本を隠していた村人たちに、立ち会ってもらいました。お姉様なら、証言だけでは足りないと言うと思って」


「よく覚えていたわね」


「お姉様が教えてくれたのです。正しい話ほど、正しい手続きで残さなければならないと」


 胸の奥が痛んだ。


 私は妹を守ってきたつもりだった。


 実際には、妹も私の仕事を見ていたのだ。


     ◇


 正午、王都から公開審理の召喚状が届いた。


 審理は三日後。


 王太子側の提出証拠一覧には、予想どおり『マリアベル・ヴァルモンドの自筆証言』が記されている。


 だが、もう一つ奇妙な文書があった。


『王宮記録官レティシアによる原本窃盗の告発状』


 告発日は五年前。


 北方救恤制度が始まり、私が削除前の条項へ異議を記録した、その翌日になっている。


「五年前から、あなたを犯人にする準備をしていたということか」


 シリウス様の声が低くなった。


「違います」


 私は告発状の写しを光へ透かした。


「この紙は、今年から王宮で使われ始めたものです。五年前には存在しません」


 透かしには、現国王の即位二十周年を示す二十枚の月桂樹の葉。


 今年の春に採用された新しい公用紙だった。


 五年前の日付を持つ文書が、今年作られた紙に書かれている。


 しかも、王太子側が正式な証拠として提出した。


「殿下は偽造文書を、自分から審理の記録へ入れたのです」


 私は証拠一覧へ受領時刻を書き、監査印を押した。


 その直後、宿舎の外で馬のいななきが上がった。


 扉が開き、衛兵が雪崩れ込んでくる。


「王命である。盗まれた王宮原本を回収し、レティシア・ヴァルモンドを拘束する」


 隊長が掲げた命令書には、国王の印章が押されていた。


 けれど私は、その印章を見てすぐに分かった。


「その王命も偽物です」


 国王の印章には、王宮記録官だけが知る小さな欠けがある。


 目の前の印には、それがなかった。


 王太子は公開審理を待たず、原本ごと私を消すつもりだ。


 私は二通の妹の証言を胸元へ収めた。


「シリウス様。三日後では遅すぎます」


 剣を抜いた彼の背後で、鐘楼の鐘が鳴った。


「審理を、今ここで始めます」

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