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悪役令嬢の罪状を書けと命じられましたが、王宮記録官の原本には殿下の命令も妹の嘘もすべて記録されています  作者: ハッピーミラクルエンジョイ


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8/17

妹は何を知っていたのか

 マリアベルが行方不明になった三日前。


 それは、私が王都を出た翌日だった。


「偶然とは思えませんね」


 シリウス様は王都から届いた照会書を机に広げた。


 妹は王太子の離宮から姿を消し、護衛も侍女も行き先を知らない。残されていたのは、空になった宝石箱と、暖炉で焼かれた書類だけ。


 ただし、焼け残った紙片が一枚あった。


『北方救恤費 受領確認』


 右下にはマリアベルの署名がある。


「やはり妹が横領に関わっていたのでしょうか」


 村長が不安そうに尋ねる。


「署名したことと、仕組みを知っていたことは別です」


 私は紙片の写しを拡大鏡で見た。


 文字は確かに妹のものだ。けれどインクの濃淡がおかしい。署名だけが先に書かれ、その上から受領確認の文章が印刷されている。


 白紙に署名させ、あとで文面を加えたのだ。


「マリアベルも証拠として利用された可能性があります」


「では、なぜ逃げた」


「自分が何に署名したのか、知ってしまったからです」


 私は記憶をたどった。


 祝賀会の前夜、マリアベルは私の執務室を訪ねている。


『お姉様。記録は、消してしまえばなかったことになりますか』


 私は忙しさを理由に、顔も上げず答えた。


『原本は消せないわ。訂正した事実も含めて残るの』


 あのとき妹は、安堵したように笑った。


 翌日、私は悪役令嬢の罪状を読むよう命じられた。


「彼女は私に知らせようとしていた」


 そう口にした瞬間、胸の奥が冷えた。


 妹を守るつもりはない。私の婚約を奪い、偽りの罪状の前で黙っていたことは事実だ。


 それでも、彼女の罪まで誰かに書かせるつもりはなかった。


 扉が激しく叩かれた。


 入ってきた兵士が、泥に汚れた小箱を差し出す。


「北街道の廃礼拝堂で見つかりました」


 箱の蓋には、ヴァルモンド家の紋章。


 中には宝石ではなく、細く巻いた紙が何十枚も詰められていた。


 すべて王太子からマリアベルへ送られた手紙だった。


『署名だけして返せ』


『姉には何も言うな』


『北方の数字を尋ねられたら、記録官が処理したと答えろ』


 最後の一通だけ、文面が違った。


『レティシアを北へ向かわせた。原本を回収できなければ、お前を共犯として処分する』


 日付は、マリアベルが消えた日の朝。


 シリウス様が低く言った。


「王太子は、二人とも切り捨てるつもりだった」


 箱の底には、妹自身の筆跡で一行だけ残されていた。


『お姉様。最初の原本は、王宮の地下書庫にはありません』


 私はその紙を裏返した。


 続きは、血のように滲んだ文字だった。


『私が盗みました』

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