命じられたとおり、全文を読み上げます
卒業祝賀会の大広間で、王太子は私に罪状の朗読を命じた。
「第一の罪状。学院の温室で、マリアベル嬢の頬を打ったこと」
私は一度言葉を切る。
「この記述は事実ではありません。同時刻、私は財務会議に出席しておりました」
財務卿が立ち上がった。「相違ない。十二名全員の署名がある」
「第二の罪状。妹の教本を焼いたこと」
マリアベルがうなずく。
「教本は古書店へ売却されています。売却者はマリアベル嬢。代金で購入した青い髪飾りは、今お召しですね」
広間の視線が妹の髪へ集まった。
「やめろ、レティシア!」
「命じられたとおり読み上げております」
私は偽の罪状を閉じ、黒い原本を開いた。文字が金色に輝く。
「王暦三百十二年五月七日。王太子アルフォンス殿下は、マリアベルを新たな婚約者とするため、現婚約者レティシアに虚偽の罪状を自白するよう命じた」
各国の使節が一斉に手帳を開いた。
「婚約解消後も、レティシアを王宮記録官として使用する意向を示した」
「閉じろ!」
殿下が原本へ手を伸ばす。その腕を黒い礼装の青年が押さえた。
「王宮記録の朗読を実力で妨げれば、国家反逆罪です」
北方監察官シリル・レインハルト侯爵だった。
「記録官殿。続きを」
私は最後まで読み、王太子妃候補の宝石と記録官の銀鍵を殿下の前へ置いた。
「婚約解消をお受けします。また、記録官も辞任いたします」
「許していない!」
「婚約解消後も支えろ、とのお言葉でしたね。お断りいたします」
その瞬間、北塔の鐘が鳴った。
一度、二度、三度。
未処理の命令を知らせる警鐘は、十度を越えても止まらない。
「何件ですか」
シリル様が鐘を見上げた。
「少なくとも百件。あなたが十年間、名を残さず処理していた王太子の仕事です」
私は青ざめた殿下を振り返った。
彼の仕事が今、すべて本人のもとへ戻ろうとしていた。




