悪役令嬢の罪状
「明日の卒業祝賀会で、これを読み上げてほしい」
王太子アルフォンス殿下が机の上へ置いたのは、三枚の羊皮紙だった。
表題にはこうある。
――レティシア・ヴァルモンド公爵令嬢による、マリアベル嬢への加害行為について。
私は最後まで目を通し、羊皮紙を戻した。
「事実と異なる記述が七か所ございます」
隣に座る異母妹マリアベルが肩を震わせる。
「お姉様は、またわたくしを嘘つきだとおっしゃるの?」
「文書の内容が事実と異なると申し上げました」
殿下は彼女の肩を抱き、私をにらんだ。
「そうやって言葉の違いを盾に相手を追い詰めるところが、君の悪い癖だ」
第一の罪状は、学院の温室で妹の頬を打ったこと。その時刻、私は財務会議で議事録を書いていた。出席者十二名の署名もある。
第二の罪状は、妹の教本を暖炉へ投げたこと。その教本は三日前、妹自身が古書店へ売っていた。
残りも調べれば、すぐ偽りだと分かる。
殿下は調べなかったのではない。調べられる私を罪人にしようとしている。
「こちらを読み上げた後、私はどうなるのでしょう」
「君との婚約を解消し、マリアベルと新たに婚約する」
妹が顔を赤らめる。
「だが君の記録官としての能力は高く評価している。婚約解消後も王宮に残り、私とマリアベルを支えてほしい」
「王太子妃は妹に譲り、その仕事は私が続ける、と」
「意地の悪い言い方をするな。適材適所だ」
「承知いたしました」
殿下は安堵した。何を命じても、レティシアなら最後には引き受ける。彼が信じているのは私ではなく、私の従順さだった。
「明日の祝賀会で、この文書を読み上げます」
「ありがとう。君なら分かってくれると思っていた」
一礼して部屋を出る。扉の内側から妹の声が聞こえた。
「本当にお姉様は怒っていないのでしょうか」
「心配はいらない。あれは役目を投げ出せない女だ」
私は記録室へ入り、黒い箱を開けた。中には十年間に記した命令書と議事録の原本がある。署名者が死んでも、王が代替わりしても、原本の文字は消えない。
新しい頁を開く。
王暦三百十二年五月七日。
王太子アルフォンス殿下は、マリアベルを新たな婚約者とするため、現婚約者レティシアに虚偽の罪状を自白するよう命じた。
婚約解消後も、レティシアを王宮記録官として使用する意向を示した。
発言者、アルフォンス王太子殿下。
立会人、マリアベル・ヴァルモンド嬢。
記録者、レティシア・ヴァルモンド。
文字が金色に光り、原本へ定着する。
これでもう、国王陛下にも消せない。
私は偽の罪状と原本を、明日の祝賀会で読む順番に重ねた。
殿下の命令どおり、すべて読み上げよう。
一言も省かずに。




